TUP BULLETIN

速報601号 チャルマーズ・ジョンソン、アメリカ共和政体の黄昏を語る 060426

投稿日 2006年4月26日

FROM: hagitani ryo
DATE: 2006年4月26日(水) 午前10時21分

☆ジョンソン元教授の帝国興亡史講義★
本稿、トム・エンゲルハートによるインタビュー記事パート2において、
チャルマーズ・ジョンソンは、前回に引きつづいて現代のアメリカ帝国の姿
を語り、ペンタゴン主導の軍事優先主義の暴走にともない、議会制民主主義
と資本主義経済とが共に空洞化し、やがてアメリカ合州国そのものが衰退に
向かうと予測します。井上

凡例: (原注)[訳注]〈ルビ〉《リンク》
_________________________________________

トム・ディスパッチ・インタビュー:
チャルマーズ・ジョンソン、アメリカ共和政体の黄昏〈たそがれ〉を語る

このインタビューのパート1《*》で、チャルマーズ・ジョンソンは、ベル
リンの壁が崩れ、冷戦が終結した瞬間が、彼にとって、どんな意味をもって
いたのかを語り、帝国と軍国主義とが、いかに深くアメリカの血流に浸透し
ているのかを追究し、さらに、地球規模に軍を展開し、おそらく1兆ドルの
4分の3に達すると思われる帝国費予算――ペンタゴンの実質年間歳出――
を計上する、認知されない軍事ケインズ主義経済で覆われた国に生きること
の意味を考察している。トム
速報599号
http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/648

「議会はどうなったのか?」
――チャルマーズ・ジョンソンに訊く(パート2)
[取材: トム・エンゲルハート]

【トム・ディスパッチ】あなたは2007年度ペンタゴン予算の精神病理を
論じておられました……

【チャルマーズ・ジョンソン】私に理解できないのは、現在の国防予算と最
近の「4年ごとの国防計画見直し」《1.Quadrennial Defense Review=こ
れじたいはなんの戦略もない代物》とが、あらゆる点で、わが国の従来の方
式を踏襲していることです。世界中200か所におよんで供用される米軍ゴ
ルフ・コースはよく手入れされていますし、バイエルン・アルプス、ガー
ミッシュ《2》の全軍共用スキー・リゾートや、東京かソウルの中心街
《3》の高級ホテルに行きたい提督たちや将軍たちのために、リア・ジェッ
ト[*]を飛ばす用意ができていることを忘れてはなりません。
1 http://www.commondreams.org/views06/0319-28.htm
2 http://www.edelweisslodgeandresort.com/home.html
3 http://www.edelweisslodgeandresort.com/afrc_worldwide.html
[高級乗用小型ジェット機。豪華な内外装の写真+内部レイアウトをどうぞ
――
http://latowncar.com/jet_lear.htm]

私に説明できないのは、議会はどうなったのか、ということです。議員たち
が腐敗したというだけのことでしょうか? 確かにそれもあるでしょう。私
は、ここカリフォルニアの第50区に居を構えています。昨年12月、この
選挙区の下院議員、ランディ・カニンガムが、下院歳出委員会・軍事小委員
会の一員として、予算にあれこれ内密に潜りこませる才覚のおかげで、24
0万ドル相当のガラクタ――ロールスロイスや何点かのフランス骨董品――
を受け取ったとする、米国議会史上で最悪の収賄を白状しました。彼は、さ
さやかな会社を経営する友人たちのために一肌脱いでいました。国防総省で
さえ、要らないと言っていた品目を追加していたのです。

これは汚職であり、この前、だれかがおっしゃっていたように、連邦議会は
極めつけのお買い得になっています。240万ドル支払っただけで、この連
中はざっと1億7500万ドルばかりの契約にありつけました。お手軽な商
売でした。

軍は統制を外れています。行政府の一部門として、国家安全保障情勢を口実
に軍部の拡大が図られました。私が子どもだったころ、ペンタゴンは陸軍省
[the Department of War(1789-1947)=直訳では「戦争省」]の名称で呼ば
れていました。現在は国防総省[the Department of Defense=同「防衛
省」]になっていますが、防衛と言っても名ばかり、関係ないのは歴然とし
ています。ずっと前からです。今では、「国土安全保障省」という名の、も
うひとつの政府部門《*》を私たちは抱えています。いったいぜんたい、な
んのためのお役所か不思議ですし――国防総省も右に同じ!
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E5%9B%BD%E5%9C%9F%E5%AE%89%E5%85%A8%E4%BF%9D%E9%9A%9C%E7%9C%81

政府はまっとうに動いていません。まともな監督が欠けているのです。建国
の祖父たち、すなわち憲法の起草者たちは、議会を国権の最高機関と定めま
した。私にとって――ネオコンとジョージ・W・ブッシュとが権力の座につ
いて以来、私たちが目撃してきた行政権限の拡大よりも大きな――謎は、こ
うです。なぜ議会は私たちの期待を裏切ったのだろうか? それによって、
国民は恩恵にあずかるのだろうか? 雇用が増えるのだろうか?

カニンガムが自白したときよりもずっと前に、私は“The
Military-Industrial Man”《*》という標題の記事をものにしましたが、
このような無風選挙区にあって、どうすればこの男を排除できるのか、遺憾
ながら、私には分からないと書いています。これがロサンジェルス・タイム
ズ紙の論説面に掲載されると、同紙編集者あてにロサンジェルス中心街の第
34区で投函された手紙が2通届き、それには、カニンガムがおいしい仕事
を持ってきてくれるのなら、自分の選挙区の議員だったらよかったのにと思
うだけであり、アラスカのミサイル防衛兵器みたいに爆発したり地面に突っ
こんだりするような代物を造っても一向にかまわないと書かれていました。
つまり、結局は大掛かりなハイテク案山子〈かかし〉になる代物に、わが国
はすでに1億ドルを注ぎこんでしまったというわけです。それは命中しませ
んでした。照準装置がなかったのです。発射試験は失敗。役に立ちません。
もっと不気味な計画――空軍の宇宙空間進出、または空軍が好んで言う「全
領域制覇」――の口実であるのは確かです。
*TUP速報374号「軍産複合体の権化」04年9月20日――
http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/397?expand=1

私たちはこれに注意を向ける必要がありますが、党派的な視点に立つのも、
やはりいただけません。民主党だったら、もっとましな仕事をするだろうと
信じる理由はありません。彼らがうまくやった例〈ためし〉がないのです。
彼らは共和党と同じく性急に軍備を拡大しました。

私たちがつぶさに調べ、理解しようとしている相手は、獣〈けだもの〉であ
り、目下のところ制止できないように私には思えます。こう言ってみましょ
う。わが国の憲法の制定者、ジェームス・マディソン[第4代大統領
(1809-17)、憲法制定会議を主宰]は、すべての権利を制する権利は、情
報を得る権利である、と述べました。この権利がなければ、他のものは無意
味です。なにが起こっているのか知ることができないなら、権利の章典は役
に立ちません。この国では、秘密主義が常軌を逸したものになって久しいで
すが、現政権のもとで、桁外れにひどいことになっています。ジョン・ア
シュクロフトが司法長官に就任したとき、情報公開法にもとづく開示請求
は、可能なかぎり困難にすべしと命令しました。

ペンタゴンの闇予算は、現政権が成立してから、ますます大きく膨れあがり
ました。こうしたお金は、だれの目にも触れることのない事業に使われてい
ます。私にとって、私たちの社会における最高におもしろい座興のひとつ
は、国家安全保障局(NSA)の前長官、マイケル・ヘイドンみたいな軍の
制服組高官が議員たちの前に座って証言しているのを眺めることです。先日
にもありました。ヒラリー・クリントンがヘイドンにこういう質問をしまし
た――あなたは隠密行動(NSAの令状なしスパイ行為)を何回しましたか
? おおよそのところでいいから、私たちに答えてください。「あなたにお
答えしません」というのが、彼の返答でした。1年ほど前、国防情報局長
官、ヤコビ提督は、こういう質問を面と向かって受けました――わが国は、
今でもアーメド・チャラビ《*》に月額34万ドルを支給しているのですか
? 彼の返事は、「私は言いたくありません」というものでした。
http://www.csd.net/~panta/peace_page/uso_book_htm/report_white_house/wh_reports004.html

こうなっては、上院議員は立ち上がって、こう言うべきです――「私は連邦
保安官にあの男の逮捕を要求する」。と言うのも、これは議会侮辱罪にあた
るからです。

【TD】もちろん、あなたは議会を侮辱してもいいだけの理由があるとも
おっしゃっていますね。

【ジョンソン】確かに理由があります。連中がどうしてこんなことをするの
か、理解できます。かつての1977年、当時のCIA長官、リチャード・
ヘルムズが議会における虚偽の陳述により重罪を宣告されました。(チリの
大統領)サルバドール・アジェンデが倒されたとき、わが国はあらゆる面で
関与していたにもかかわらず、彼は、いいえ、われわれにはなんのかかわり
もなかったと言いました。彼は執行猶予つきの判決を受け、小額の罰金を
払って、バージニア州ラングリーのCIAビルに帰任し、群衆の歓呼で迎え
られました。われらがヒーロー! 秘密諜報機関は大統領の私的軍隊であ
り、それを使って、大統領がなにをやっているのか、私たちには窺〈うか
が〉い知れないのですが、長官は隠密主義の原則を誇らしげに貫いたので
す。彼らの行動はすべて秘密です。彼らの予算のすべての項目が秘密です。

【TD】それに軍もまた、ちょっとした私兵軍団になっています……

【ジョンソン】まさしく。徴兵制はとてもたやすく操れますので、私は嫌い
ですが、危機にさいして、国民は国防義務を担うという原則をほんとうに信
じています。さて、どのようにそうするかは、いまだに論議を呼んでいる問
題ですが、少なくとも、国民の軍隊は軍国主義を抑制する機能を果たしてい
ました。軍隊にいる人びとは、自分たちが不本意ながらに入隊していること
を知っていました。上官たちは適任であるか、戦略は理に適っているか、戦
闘任務につかざるをえないかもしれない戦争は正当なものか、こういったこ
とに彼らはきわめて大きな関心を抱いていましたし、ヴェトナム戦争のとき
のように、自分たちはとんでもなく騙〈だま〉されていると疑いはじめる
と、アメリカ軍はバラバラになりはじめたものです。当時の兵士たちは上官
に向かって本気で手榴弾を投げていましたので、クレイトン・エイブラムス
司令官が、彼らを撤退させなければならないと発言するほどになりました。
この撤退をヴェトナム化とかなんとか言い換えても、これこそが彼らのやっ
たことなのです。

わが国はイラクで同じ道をたどっているのでは、と私は恐れています。朝刊
を開くと、新兵応募資格の範囲を、第4水準にまで、つまり重度の知的障害
を負った人たちにまで広げようとしているのを見つけたりします。恐ろしい
ことに、こういう人たちを大砲の餌食[兵士の暗喩表現]に仕立てようとし
ているのです。

国内雇用の悲劇を話題にするのに、むつかしい知識は無用です。アメリカ人
はそれほど裕福ではありません。2005年の貿易赤字は7258億ドルに
なっています。新記録です。たった1年の間に25パーセント近くも膨れあ
がりました。物作りをしないで、こういう類の戦争をし、役に立たない兵器
を造っていては、やっていけません。ハーブ・ステインは、共和党政権の経
済諮問委員会の委員長だったとき、とてもご立派なことに、「やっていけな
いことは、永遠に続けられない」と言いました。

【TD】だから、私たちの問題を矮小化しようとします。

【ジョンソン】ジョージ・ブッシュの観点から見て、彼の政権は、彼が達成
したかったことをイデオロギー的にすべて達成しました。非常に多くの人び
との意識のなかで、軍隊は今ではただひとつ機能しているアメリカの制度な
のです。彼は支配階級の富を増やしました。彼は可能なかぎり徹底的に三権
分立を破壊しました。こういうことが、たった今、私たちが直面している問
題なのです。三権分立を回復するための唯一の方策は、議会の活力を再生す
ることにつきますが、その方向にアメリカ国民を向かわせるために、なにを
もって震撼〈しんかん〉させたらいいのか、私には分かりません。ただ国民
だけが、これをすることができるのです。裁判所はだめです。大統領はやる
気がぜんぜんありません

私が思いつくかぎりで、ただひとつ可能性があるものは、破産ということに
なるでしょう。2001年にアルゼンチンを見舞った事態と同じです。ラテ
ンアメリカ随一の金持ち国が最貧諸国に仲間入りしました。国が倒産したの
です。対外借入能力を失い、国政掌握能力を失いましたが、実に多くのアル
ゼンチン国民が、1990年代をとおして、なんとも腐敗した歴代大統領
が、なんとも間違いだらけの助言に耳を傾け、なんとも愚かなことをしてき
たものか、と考えました。そして目下、この国は再建途上にあります。

【TD】しかし、スーパーパワー[超強大国]の破産とは? これは、まだ
だれも現実味をもって研究していない概念です。大英帝国が最終的に退場し
たとき、私たちがその背後にいました。わが国の後ろに、だれかいるでしょ
うか?

【ジョンソン】いいえ。

【TD】では、私たちにとって、破産は、なにを意味するのでしょうか?
なにしろ、わが国はアルゼンチンではないのです。

【ジョンソン】それは、状況に対する支配権を失うことを意味するでしょ
う。急転直下、わが国は他国の思いやりに頼り、施しを求めるようになりま
す。わが国はすでに7250億ドルの貿易赤字を抱えています。財政赤字は
わが国史上最大になっていて、GDP[国内総生産]の6パーセントを優に
超えています。国防予算は天井知らずであり、正気の沙汰ではありません
し、すでにイラク戦争で使った、あの5000億ドルも忘れてはいけません
――その最後のビタ一文まで、アメリカ市場に参入したいために、貯蓄し、
投資した中国と日本の人びとからの借り入れ金です。彼らが私たちに金を貸
したくないと決めるとき、金利はメチャクチャに急騰し、株式市場は崩壊す
るでしょう。

私たちは約20億ドルの日銭を負債の利払いのためだけに注ぎこんでいま
す。人びとがそのお金を私たちに貸すのを止めたとたん、私たちはそれを国
内貯蓄から捻出しなければならず、しかも、たった今、この国の貯蓄率はゼ
ロ水準以下になっています。アメリカ国民に所得の20パーセントを貯蓄さ
せるためには、少なくとも2割の利子を払わなければならず、その結果は、
まことに途方もない不況です。私たちは1930年代の世情に逆戻りするで
しょうが、それについては私の母がよく私に言って聞かせていたものです
――あのころ、私たちはアリゾナの田舎に住んでいました――だれかが裏口
のドアを叩いて、「なにか仕事はありませんか? 駄賃はいいですから、食
べるものがほしいのです」と言います。すると母は「分かったわ、あなたに
やっていただくことをなにか見つけて、卵とジャガイモをあげましょう」と
言います。

これと同じような恐慌が、かなりの長期間、この国に居座るでしょう。他の
国ぐにも、やはり深刻な不況に悩むでしょうが、おそらくずっと早く克服す
るでしょう。

【TD】すると、中国、日本、そしてヨーロッパの経済は、わが国に連動し
て下向くのではなく、わが国を置き去りにして、上向くと想定できるのです
ね。

【ジョンソン】間違いありません。そうした国ぐにや地域には可能だと考え
ます。

【TD】例えば、中国のバブル経済、つまり対米輸出に頼る産業部門が崩壊
し、同国でも混乱を招くとは、お考えになりませんか?

【ジョンソン】それもありえますが、中国人はその責任を政府に押しつけな
いでしょう。それに、いつまでたっても中国経済は国内消費を育てないだろ
うと考える理由はありません。あの大勢の人びとの関心を生活改善に向ける
ことができれば、中国人は、セーターやパジャマの北米市場における売り上
げに依存する必要が永久になくなります。アメリカ経済は規模がでっかいで
すが、他の国ぐにがわが国なしにやっていけないほど大きいと信じるだけの
理由はありません。おまけに――兵器だけは別ですが――わが国はすでにほ
んのわずかのものしか製造していませんので、私たちは自己欺瞞に陥ってい
るのです。

もっと思慮深く振る舞わなかったために、私たちは厳しい代償を払ったよう
です。あまりにも愚かだったので、なんにも命中しそうにない8発のミサイ
ルを、アラスカ州フォート・グリーリーの地面に突っこませるために、社会
基盤、医療、教育を見捨てたのです。実を言えば、試験のとき、サイロから
飛びださないミサイルもいくつかありました。

【TD】あなたは、いつまでドルが国際通貨としての地位にとどまると見ま
すか? 私は、先ほど、イランがユーロに乗り換える兆しを見せていたと気
づきました。

【ジョンソン】そうです。彼らはユーロを基軸通貨にした石油市場を創設し
ようとしています。これと同様のことをする国がどれほどの数になるか、見
当がつきません。アメリカのどの大学でも教えられている経済学1部A課程
は、世界システムが平衡を取り戻すとき、
経済史上最大の貿易赤字を生みだす国はペナルティを払わなければならない
と告げるでしょう。これはなにを意味するかと言えば、通貨価値があまりに
も下落して、レクサス[トヨタの高級車]を買えるアメリカ人がいなくなる
ということです。アメリカ人がイタリアのリゾートで過ごすためには、手押
し車いっぱいにドル札を積んでいかなければならないでしょう。

【TD】少なくとも、CIAが、だんだん慣れっこになった手口で、イタリ
アの路上から人びとを誘拐するのを、この状況が止めさせるようになるかも
しれません。

【ジョンソン】(笑う)CIAの誘拐担当は、もはやミラノのプリンチペ・
ディ・サヴォイア(五つ星ホテル)には泊まれないですね。間違いなし。

今、東アジアの高度経済成長諸国は巨額の米国財務省証券を保有していま
す。ドルが価値を失えば、最後にドルから逃げる人が、すべてを失うことに
なるので、当然ながら、一番先に逃げたいと思うものです。だが、最初に動
きを見せる人が、他の全員をパニックに追いこむ原因を作ります。だから、
これは細心の注意を要する、それでいてイラつかせる状況です。

1年前、わが国のドルを2000億という規模で保有している韓国中央銀行
の総裁が公の場に出て、わが国はいささか過ぎたドルを買っていると私は思
う、と発言し、今となっては、ユーロは言うにおよばず、ドバイの通貨のほ
うがまだましだとほのめかしたのです。たちまちパニックです。人々は売り
に走りました。社長たちは電話に飛びつき詰問しました。いったい貴国民は
なにを企んでいるのだ? すると、韓国人たちは非を認めました――だか
ら、相変わらずのままです。

今日のアメリカには、頭が切れる若手の経済学博士号の取得者たちがいて、
この状況がいつまでも続く理由を説明する学説を考案しています。そのひと
つは、世界預金過剰説です。お金がだぶついていて、使い道がなく、わが国
に貸すしかないというものですね。それにしても、ネーション誌のとても注
目に値する経済記者、ウィリアム・グレイダーが何回か書いていますが、世
界一の債務国が融資銀行をやたらと侮辱するのは、きわめて浅はかなおこな
いです。この夏、わが国は、4個の空母艦隊を太平洋に送りだし、沖合を哨
戒させ、米軍機を飛ばし、巡航ミサイルを何発か発射して、中国人を威圧し
ようとしています。ドルを引き揚げよう、と中国人が言いださないとすれ
ば、どうしてでしょうか? OK、彼らは自国内のパニックを回避したく
て、真相としては、できるだけ巧妙にことを運び、騒ぎを可能なかぎり抑え
ようとするのでしょう。

巨額の赤字を削減しなければならないときに、減税をするとは、この政権は
自分たちの施策をどのように考えているのでしょうか? 私に分かる範囲で
言えば、現政権の政策は、共和党や民主党のイデオロギーとは無関係です
が、私たちの税金を航空母艦やその他の非生産的なもののために使わないは
ずの財政責任の観点から、その正反対は、伝統的な古い共和党の保守主義で
あろうとだけは言っていいでしょう。

それにしても、この政権の高官たちは過激です。ムチャクチャです。私たち
は皆、連中はどうしてこんなことをするのだろう、とあれこれ考えていま
す。大統領が憲法を侵犯したり、軍部が文字どおりに統制不能なまま疾走す
るのを許したり、どんなこと――新手のカトリーナ災害、鳥インフルエンザ
――に対処するにしても、軍隊を、大統領が頼りにする唯一の組織にしてし
まったりしたのは、どうしてなのだろう? なにもかも茶番めいています
が、思い起こさせてやまないのは、古代ローマの故事です。

私は、物書きとして、別の機会に書いたのが誇らしいですが、破産状況に揺
さぶられて、私たちが目覚めなければ、「クーデターを切望する」ことにな
ると恐れています。私たちはローマ共和政体と同じ末路を迎えかねません。
混乱や不安があまりにも拡大すると、ひとりの人間に対処を委ねるようにな
ります。ローマ共和国は、わが国の共和制の歴史と同じほどの期間、存続し
たのち、不注意で浅はかにも、必要もなければ、統治もできない帝国を獲得
したために、年がら年中、戦争に縛られることになって、あの落とし穴には
まりこむ羽目になりました。あげくの果て、帝国がローマ人たちに取りつい
たのです。ユリウス・カエサルに対し、人民政治家を演じる軍国主義者に対
し、いかほどの免疫力を私たちが保持しているものやら、私には見当つきま
せん。

【TD】全志願制の軍隊が、失敗した帝国の手先になるとお考えですか?

【ジョンソン】ありうることです。すでに私は、この無能な政府を我慢する
軍隊の度量の大きさにあきれています。つまり、将官たちは、ヴェトナム戦
争のあと、さんざん苦労して立て直した虎の子の軍が、ふたたびバラバラに
なったり、新兵補充がますます困難になったり、士官学校でさえもおかしく
なったりしていると知っています。いつまで彼らが耐えられるのか、私には
分かりません。バグダード攻略を指揮していた司令官、トミー・フランクス
は、米国内で9・11攻撃に比肩しうる新たなテロ攻撃があれば、軍には権
力を掌握するほかに選択肢がなくなると言ってのけました。翻訳すれば、こ
う言っているのですね――われわれが任務を遂行するとすれば、どうして
ジョージ・ブッシュみたいな能無しに耳を傾けるのだ? どうしてロナルド
・ラムズフェルドみたいな時代遅れの人物の命令を受けるのだ? ジョン・
マケイン[*]は別にして、軍務経験のある共和党議員は実質的に皆無だと
いうのに、どうして連邦議会の意向をくむのだ?
[John Sydney MaCain III (1936-)=アナポリス海軍兵学校卒(58)、ヴェ
トナム戦争中、4年半にわたりハノイで捕虜生活(67-73)、のちに下院議
員をへて上院議員]

わが国の問題から抜け出るための明確な道は、私には見えていません。政治
システムは破綻しています。野党を選ぶこともできますが、CIAを統制下
におくのは無理です。軍産複合体を管理下におくのは無理です。議会に活力
を呼びもどすのは無理です。状況はもっと悪化するのに、[政権交替は]も
うひとつの現状維持策にすぎないでしょう。

さて、ことわっておきますが、私が間違っているかもしれません。間違って
いれば、それはそれで嬉しいことですので、あなたは許してくれるでしょ
う。(笑う) 過去にも、公権力による明白な越権行為がありました。リン
カーン[共和党、第16代大統領(1861-65)]がいて、人身保護令状請求
権を停止しました。セオドア・ルーズベルト[共和、第26代
(1901-09)]は行政命令を実質的に発明しました。それまで、たいがいの
大統領は行政命令を出していません。ルーズベルトは1000件を優に超え
る行政命令を公布しました。これは、現在の大統領による[採択法案]署名
時声明に相当するものです。お次にくるのは、血迷った長老教会信徒、ウッ
ドロー・ウィルソン[民主、第28代(1913-21)]であり、今、ネオコン
たちの熱愛の対象になっていますし、フランクリン・ルーズベルト[民主、
第32代(1933-45)]もいて、彼は日系アメリカ人を敵視する政策を推進
しました。だが事後になって、アメリカ国民が自分たちの名によっておこな
われたことに関心を向けるようになり、いつでも振り子が振りもどす傾向が
ありました。私が懸念していることはこうです――今度も、振り子が振りも
どすと期待してもいいのでしょうか?

【TD】おそらく振り子は存在しないのでしょう。

【ジョンソン】今日、チェイニーは、私たちに向かって、(1973年の)
戦争権限法や、議会による諜報機関の監視などのために、大統領権限が殺
〈そ〉がれていると説いています。これらの穏当な改革は、ニクソン政権期
における不快きわまる憲法侵犯に対処するためになされたものなので、私に
とって、彼の説教は笑止千万の印象を与えます。しかも、たいがいの改革は
死産に終わっているのです。戦争権限法を妥当なものと認めた大統領はひと
りとしていません。これは議会が定めた法律であり、私たちの統治理論によ
れば、紛れもない違憲立法でないかぎり、最終決定であるにもかかわらず、
歴代大統領はそれに縛られないものとして振る舞ってきました。これでも、
法治国家でしょうか? 違います。この国は違います。もはや違います。

【TD】たいてい私たちは、ソ連の崩壊とともに、本質的に言って、わが国
の勝利をもって冷戦が終結したと信じています。私の友人が別の解釈を唱え
ています。彼が言うには、米国はソ連よりもずっと強大だったので、わが国
の負債を他の国ぐにに転嫁する能力に長けていたのです。ソ連はそれができ
ずに破綻しました。私の質問はこうです――今、私たちは遅れてやってくる
冷戦終結を目撃しているのでしょうか? たぶん、ふたつの超大国の双方と
も、かの名高い歴史の屑篭に向かっていたのですが、違いはその歩みの速さ
だけにあったのではないでしょうか?

【ジョンソン】ソ連はわが国よりも貧しかったので、先に破綻したのであ
り、私たちが導きだした、話にならない傲慢な結論――わが方の戦勝、勝利
――は見当違いであると私はいつも信じてきました。同じ理由――帝国版図
の過剰拡張、過度の軍事優先主義、バビロニアに始まる帝国の歴史を研究す
る学者たちが究明してきた状況――により、どちらの側も冷戦に敗北したの
だ、と私はつねづね考えてきました。私たちはミハイル・ゴルバチョフの功
績を認めたことがありません。たいがいの歴史家は、自発的に降参した帝国
はないと言うでしょう。私の考えつくかぎり、それをやってみた唯一の例
が、彼の指導下のソ連だったのです。

【TD】結びの一言をお願いできますか?

【ジョンソン】私はこうした課題にまだまだ取り組んでいます。私の最初の
試みは“Blowback”[『アメリカ帝国への復讐』]の出版でした。これは、
私が米国における大掛かりなテロ攻撃をいささかなりとも予測するよりも
ずっと以前のことでした。この本は、21世紀の初頭における、さまざまな
対外政策問題は――私は今でもまさしく同じように捉えているのですが――
前世紀から引き継いだもの、ラテンアメリカにおけるわが国の強欲な活動か
ら、また私たちがヴェトナム戦争の教訓を正しく学び損ねたことから、繰越
勘定になってしまったものであると表明しています。“The Sorrows of
Empire”[『アメリカ帝国の悲劇』]は、わが国の軍事優先主義を正面から
解明しようとする企てでした。今、私たちは裕福で賢明な同盟諸国を――事
実上、すべて――どれほど遠ざけてしまったのか、私はじっくり考えていま
す。どれほど深く私たちは憎まれるようになったことか。これは、タレーラ
ン[フランスの外交官(1754-1838)]的な意味で、回復不可能な類の間違
いなのです。だから、私は、『ブローバック三部作』と想定するシリーズの
第3巻の標題を“Nemesis”とする予定でいるのです。ネメシスはギリシャ
の復讐の女神でした。彼女は、あまりにも傲慢になった人びと、自分にとら
われすぎて、すっかり慎ましさを失ってしまった人びとを追っかけます。い
つも、一方の手に天秤――審判の日の象徴――を、他方の手に鞭〈むち〉を
持つ、険しい姿として表現されています……

【TD】それでは、彼女が私たちを追っかけてくるとお考えですか?

【ジョンソン】おお、彼女はすでに到着していると私は信じています。彼女
は出番をじっと待っていて、私たちはすぐにでも迎えいれようとしていると
信じています。

[原文]
Tomdispatch Interview: Chalmers Johnson on Our Fading Republic
posted March 22, 2006 at 2:55 pm
http://www.nationinstitute.org/tomdispatch/index.mhtml?emx=x&pid=70576
Copyright 2006 Tomdispatch

[トム・ディスパッチ・インタビューTUP版バックナンバー]
速報549号 ハワード・ジン「帝国の拡大限界」
http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/595
速報556号 ジェームズ・キャロル「蚊とハンマー」
http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/602
速報558号 シンディ・シーハン「ブッシュ大統領の自滅」
http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/604
速報563号 ホアン・コール(パート1)「ブッシュの戦争」
http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/609
速報566号 ホアン・コール(パート2)「米軍のイラク撤退」
http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/612
速報598号 マーク・ダナー「ブッシュの戦争の虚実」
http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/647

[翻訳] 井上利男 /TUP