TUP BULLETIN

速報607号 イラン大統領から米国大統領への書簡 (上) 060524

投稿日 2006年5月24日

FROM: hagitani ryo
DATE: 2006年5月24日(水) 午前11時18分

神を問い為政者の道を問う呼びかけにブッシュは答えられない
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 5月8日付でイランのマフムード・アフマディネジャド大統領がブッシュ米大
統領に送った公開質問状を、ブッシュ政権は案の定黙殺。他の欧州政権も日本も
これに右へ倣えをしているようです。
 この書簡を、イラン国内向けのジェスチャーとのみ捉えるべきでしょうか。
 神と預言者に繰り返し言及しつつアメリカの偽善性を総括するこの書簡は、世
界のモスリムに限らぬ人々にとって説得力をもつはずです。同大統領が保守的シー
ア派であることに懸念を覚え、あるいは国をとわず核エネルギー開発に反対する
人々にとっても無視しがたい内容が、この書簡にはあると思います。
 5月10日、インドネシアで開催された「イスラム開発協力会議」(D8会議:エ
ジプト、バングラデシュ、インドネシア、イラン、ナイジェリア、マレーシア、
パキスタン、トルコ)では、インドネシアのユドヨノ大統領がイランの核エネル
ギー開発は平和目的のものであると言明しています。
戦前半世紀は脱亜入欧、戦後半世紀はアメリカの気に入られさえすれば、とい
う方針で、国連のイスラエル非難決議にも反対や棄権で対応してきた日本の今後
の進路が気になります。
 長文なので前後2回に分けてお送りします。
【日本では、軍事用を核、エネルギー用を原子力としますが、英語等々ではこの
ような区別はなく、一般にnuclearで一貫しています】

TUP/萩谷 良
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アフマディネジャッド・イラン大統領の
ブッシュ米大統領への書簡
2006年5月8日

慈悲と憐れみ深くあまねき神の御名において、
アメリカ合州国大統領ジョージ・ブッシュ殿

 しばらく前から私は、どうして人は、国際社会に存在し、つねに討議され、と
りわけ政治の場および大学の学生達の間ではさかんに討議されている否定し得な
い矛盾を正当化できるのだろうということを考えてまいりました。多くの疑問が
答えられないままになっています。このような状況に迫られて私は、その矛盾と
問いのいくつかをここで取り上げてみることにいたしました。これが、その是正
につながることを希望しております。

 人は、偉大なる預言者イエス・キリスト(彼の上に平安あれ)に従う者であり
ながら、
 人権の尊重を義務と感じておりながら、
 自由主義を文明の模範として提示しながら、
 核兵器と大量破壊兵器の拡散に対し反対の意を表明しておりながら、
「テロとの戦争」をスローガンとしながら、そしてまた、
 統一された国際社会、すなわちキリストと地上の有徳の人々の統治する社会を
いつの日か確立するために尽力しながら、
 しかも同時に、
 もろもろの国を攻撃されるがままにすることができるでしょうか。

 人々の生命も名声も財産も破壊され、例えば村や都市や護送団に数人の犯罪者
のいる万一の可能性があれば、村、都市、護送団全体が炎上させられてしまうの
です。

 あるいは、ある国に大量破壊兵器の存在する可能性があれば、その国が占領
され、約10万の人々が命を落とし、水源、農業、工業は破壊され、18万人も
の外国兵がその国土に配備され、個人の住居の不可侵性は蹂躙され、その国はお
そらく50年前の段階に逆戻りさせられてしまうのです。

 そのための対価はいかばかりでしょうか。
 ある国の国庫、そしてまちがいなく他のいくつもの国の国庫からの何千億ドル
もの金が費やされ、何万人もの年若い男女(占領軍)が危険な状態に置かれ、家
族や愛する人から奪われて、彼らの手を他の人々の血で汚し、毎日のあまりの心
理的重圧のために中には自殺を図る者も出て、抑鬱に苦しみつつ帰国する兵士た
ちは病みがちとなり、ありとあらゆる病と戦わなければなりません。帰国できず
殺されて家族にその遺体が渡される人々もあります。

 大量破壊兵器を口実に、かくも巨大な悲劇が、占領される国、する国双方の人
々を飲み込んだのでした。のちに大量破壊兵器はそもそも存在しなかったことが
明らかになりました。

 言うまでもなくサダムは残虐な独裁者でした。しかしこの戦争は彼の政権を
覆すために行われたのではありません。公に伝えられた戦争の目的は大量破壊兵
器を発見し破壊することでした。しかし彼は他の目的を目指した過程において転
覆されたのです。それでもこの地域の人々はそれを喜びました。私が指摘したい
のは、長年イランに対して強いられた戦争のあいだサダムは西洋諸国により支援
されていたということです。

大統領殿
 私が教師であることをご存じかもしれません。私は教え子に、これらの行為が
どうしたらこの手紙の冒頭に述べたような価値、そして平和と宥しの伝え手であ
るイエス・キリスト(彼の上に平安あれ)の伝統に対する義務と両立しうるのか
と聞かれます。

 グァンタナモ・ベイには、裁判も受けたことがなく、弁護士も立てられない捕
虜がおり、その家族は彼らに面会すらできぬまま、彼らは自国をはるか離れた異
郷に留め置かれているのです。彼らの状況と今後の運命には国際社会の監視が届
きません。彼らが囚人なのか戦時捕虜なのか、被告なのか犯罪者なのか、誰にも
わかりません。

 欧州諸国の調査では、欧州にも秘密の監獄があることが確認されています。
人が拉致され、秘密の牢獄に幽閉されるということを、私はいかなる司法制度に
も関連づけることができません。また、かかる行為がどのように、この手紙の冒
頭に述べたような価値、すなわちイエス・キリスト(彼の上に平安あれ)の教え
と人権と自由主義的価値に対応するのかも理解できません。

 若者たち、大学生、そして一般の人々が、イスラエルという現象に多くの疑問
を持っています。あなたはこの問題に、いくつかの点でお詳しいことと思います。

 歴史を通じて占領を受けた国は数多くにのぼりますが、新しい国民を住まわせ
て新しい国を作ったというのは、以前の時代には見られなかった新現象であると
思います。

 学生たちは、60年前にはそのような国はなかったと言っています。彼らは昔の
資料と地球儀を見せて、我々がやったように探してみてほしい、イスラエルなど
という名前の国は我々には見つからなかったと言います。

 私は彼らに、第一次、第二次世界大戦の歴史を調べさせます。学生の一人は私
に、数千万もの人々が命を落とした第二次大戦の時には戦争についてのニュース
は戦争当事国によって速やかに広められたと言いました。めいめいが自国の勝利
と最近の戦線での相手国の敗北を宣伝したのです。戦争のあと、ユダヤ人が60
0万人殺されたのだと主張されました。600万と言えば少なくとも200万世
帯です。

 ここでもこれらの出来事が真実だと仮定しましょう。ではそれが、中東にイ
スラエルを建国することや、そのような国を支援することにつながるという論理
的必然がありましょうか?

 イスラエルという現象はどのようにすれば合理化あるいは説明できるのでしょ
う。

大統領殿
 イスラエルがどのようにして、またどんな対価を払って、建国されたかは、ご
存じのことと思います。

 -その過程で何万人もの人々が殺されました。

 -何百万もの先住民が難民となりました。

 -何十万ヘクタールもの農地、オリーヴ農園、町や村が破壊されました。

 この悲劇はイスラエル建国の時だけには限りません。それは不幸にも60年間
も続いています。

 子どもにすら憐れみを示さない一つの体制が樹立され、それが家々を中に住
人のいるまま取り壊し、パレスチナの要人の暗殺リストと殺害方法を公表して暗
殺し、何千人ものパレスチナ人を牢獄につないでいるのです。このような現象は
唯一無二です。どう控え目に考えても近来の歴史には極度にまれです。

 人々のもうひとつの大きな問いは「なぜこんな体制が支持されているのか」
ということです。

 この体制を支持することが、イエス・キリスト(彼の上に平安あれ)やモーゼ
(彼の上に平安あれ)の教えや自由主義の価値観に沿ったことでしょうか。

 それとも私たちは、これらパレスチナ内外の土地に元々住んできた人々がキリ
スト教徒であろうとイスラム教徒であろうとユダヤ教徒であろうと、彼らに自分
の運命を決定させることが、民主主義の、人権の、そして預言者たちの教えに反
するのだと理解すべきなのでしょうか。もしそうではないとするなら、彼らの国
民投票に対してかくも多くの反対があるのはなぜでしょう。

 パレスチナではこのほど新たに選出された政府が発足しました。独立の消息
通はそろってこの政府は選挙民を代表する者であることを確認しました。信じが
たいことですが、選挙で選ばれた政府に圧力がかけられ、イスラエル体制を承認
して闘争を放棄し、以前の政府の政策を踏襲することが勧告されたのです。

 現パレスチナ政府がそのような綱領にもとづいて運営されていたなら、パ
レスチナ民衆は彼らに投票したでしょうか?

 ここでもお尋ねしたいのですが、パレスチナ政府に対して取られたこのような
措置が、前記のような諸価値と両立するのでしょうか?

 民衆も「なぜ国連安全保障理事会でのイスラエル非難決議案はすべて拒否され
るのか」と問うています。

大統領殿
 よくご承知のとおり、私は民衆の間に暮らし、たえず人々との接触を保ってい
ます。中東の諸国からも人々が私に連絡を取ってきます。彼らも、かかる怪しげ
な政策を信用していません。

 この地域の人々がかかる政策に対しますます怒りを募らせていることは明らか
になっています。

 あまりに多くのご質問をさしあげることは私の意図するところではありません
が、ほかにも触れておく必要のある論点があります。

 なぜ、中東でなにか科学技術上の成果が達成されると、それはシオニスト国家
の脅威と解釈され、そのように描き出されてしまうのでしょうか。科学的な研究
開発は国の基本的権利ではないでしょうか?

 あなたは歴史に通じておられます。中世を除いてほかに、歴史のどんな時代に、
科学技術の進歩が犯罪とされたことがあったでしょうか。科学の成果が軍事に利
用される可能性があるということは、科学技術をまるごと否定する十分な理由と
なるでしょうか。もしそうだとすると、科学のあらゆる分野、物理、化学、数学、
医学、工学その他を含めた一切を否定しなければならなくなります。

 イラク問題で語られたことは虚偽でした。その結果はどうだったでしょう。嘘
をつくということは、いかなる文化においても非難されることであり、あなたも
嘘をつかれたくないと私は信じます。

大統領殿
 ラテンアメリカの人々には、なぜ自分たちの選んだ政府が外国から否定され、
クーデタの指導者は支援されるのか、いったいどうして自分たちはいつも脅かさ
れ恐怖のうちに暮らさなければならないのかと問う権利がないでしょうか。。

 アフリカの人々は、勤勉で、創造的で、才能のある人々です。彼らは人類の必
要とするものを提供するうえで大事な、貴重な役割をはたし、人類の物質的、精
神的進歩に貢献することができます。アフリカの大半の地域に見られる貧困と苦
境が、それを妨げているのです。なぜ自分たちの莫大な富(鉱物を含め)は、自
分たちこそが他の誰よりもそれを必要としているというのに、略奪されてしまう
のかと問う権利が彼らにはないでしょうか?

 かかる行為がキリストの教えと人権の教義にかなうことでしょうか。

 勇敢にして信仰厚きイランの民衆も、多くの疑問と不満をもっています。1953
年のクーデタとその後の合法的政府の転覆、イスラム革命への妨害、アメリカ大
使館をイスラム共和国反対活動家を支援する拠点にしたこと(これは無数の資料
により裏づけられています)、サダムの対イラン戦争を支持したこと、イラン旅
客機の撃墜、イラン国家資産の凍結、イランでの科学および核(*)の進歩に対
するますます強まる脅迫、怒り、不快な対応(時もあろうにイラン国民が自国の
進歩を喜び讃えているときに)など。そのほか数多くの不満についてはこの手紙
では申し上げませんが。

大統領殿
 9・11事件はまことに恐るべき出来事でした。無辜の人々の殺害は、世界のど
こで起っても嘆かわしく恐ろしいことです。わが国の政府は即座に犯人に対する非
難の声明を発表し、遺族の方々への哀悼の意と同情を表明いたしました。

 すべての国の政府には、国民の生命と財産と福祉を守る義務があります。伝え
られるところによれば、貴国政府は広範な安全保障、防御、諜報のシステムを用
いており、反対する者は外国でも追跡しているとのことです。9・11事件は単
純な作戦ではありません。諜報機関や安全保障機関との連携、あるいはそれらが
広範囲に浸透することもなく、あんなことを計画、実行できたでしょうか?もち
ろん、これは経験にもとづく推測にすぎません。しかしなぜ、あの攻撃のさまざ
まな側面が秘密にされてきたのでしょう。なぜ、私たちは責任をはたさなかった
のが誰なのかを知らせられないのでしょうか。そして、なぜ、あの事件に責任の
ある者と犯罪を行った連中が特定されて裁判を受けないのでしょうか。

 すべての政府には、国民に安全と心の平和を与える義務があります。これま
で数年間、貴国と世界の問題多発地域諸国の国民は心に平和など持ちえませんで
した。9・11事件の後、欧米の一部のメディアは、あの攻撃によって測り知れ
ぬ心的外傷を被った生存者と米国民を癒しいたわるどころか、ただ恐怖と不安の
雰囲気をいっそう強めただけでした。新たなテロ攻撃の可能性を語って、人々の
恐怖をことさらに長引かせたメディアもありました。これが米国民への奉仕です
か。恐怖と混乱から生じた損害は計算が可能でしょうか。

米国市民は、いつでも、どこでも新たな攻撃を受けるかもしれないという、た
えざる恐怖のうちに生きたのです。街路でも職場でも家でも安心できなかったの
です。誰がこのような状況で幸福に生きられるでしょうか。なぜメディアは安心
感を伝え心の平和をもたらす代わりに不安感を煽り立てたのでしょうか。

 この誇大宣伝がアフガニスタン攻撃の地ならしをし、またそれを正当化したと、
一部の人は信じています。ここでも私はマスメディアの役割にふれる必要があり
ます。

 メディア企業は公式には、情報の正しい伝播とニュースのいつわりない報道を
確立した方針としています。しかし、いくつかの欧米メディアがこの原則を軽視
しているのは、私の深く遺憾とするところです。イラクに対する攻撃の主な口実
は大量破壊兵器の存在でした。これは公衆が最後には信じ込むようにと、間断な
く繰り返され、こうしてイラク攻撃のための準備が整えられたのです。

 たくらまれた欺瞞的な風土においては真実は失われるのではありませんか。

 もし真実が失われるということが容認されるなら、それは前記の諸価値とどの
ように両立するのでしょうか。

 全能の主に知られた真実も失われるのでしょうか。

大統領殿
 世界中の国で市民が政府の出費をまかなうのは、政府が自分たちに奉仕すること
ができるようにするためです。

 ここでの問いは「毎年イラク戦争のために支払われる何千億ドルもの金は市民
のために何を生み出したのだろう」ということです。

 閣下がご承知の通り、貴国の一部の州には貧困のうちに暮らす人々がいます。
数多くのホームレスの人々がおり、失業は大きな問題です。もとよりこうした問
題は、程度の差はあれ、世界のどこの国にも存在します。しかし、これらの諸条
件を考慮しても、今イラク戦争のために(国庫から支払われて)費やされている
巨万の額は、先にあげた諸原則にどう一致し、それらによって説明がつくのでしょ
うか。

 貧困や失業の問題は、世界中の人々が、私たちの地域でも貴国でも持っている
不満の一部です。しかし、私が主張したいのは(またその一部にはあなたにもご
賛成いただけることを希望しますが)、

 権力の座にある者は、特定の時期その役職にあるのであり、無制限に支配する
わけではないが、しかし彼らの名前は歴史に記録され、直後の未来にも、遠い先
の時代にもつねに審判を受ける、ということです。

 民衆は私たちの大統領としての治世を子細に検討するでしょう。

 私たちが人々にもたらし得たものは、平和と安全と繁栄であったか、不安と
失業であったか。

 私たちの意図したのは正義の確立だったか、それとも特殊権益集団を支え、多
くの人々を貧困と苦しみに追いやることによって少数の人々を裕福で強大にした
だけだったのか。こうして、人々と全能の神の承認の代わりに裕福で権勢のある
人々の承認を得ただけだったのか。

 私たちは、恵まれない人々の権利を守ったのか、無視したのか。

 私たちは、世界中の人々の権利を守ったのか、それとも彼らに戦争を押しつけ、
彼らの問題に違法に介入し、地獄のような牢獄を建てて彼らの一部をそこに勾留
したのか。

 私たちは世界に平和と安全をもたらしたのか、それとも脅迫と威嚇の脅威を高
めたのか。

 私たちは自国の国民と世界の人々に真実を語ったのか、その逆を提示したのか。

 私たちは民衆の側に立ったのか、占領者と抑圧者の側に立ったのか。

 私たちの政府は、合理的行動、論理、倫理、平和、義務の遂行、正義、民衆へ
の奉仕、繁栄、進歩、人間の尊厳の尊重を推進することに取り組んだのか、それ
とも、

 銃と威嚇と不安と民衆軽視と、進歩を遅れさせ、他国の優秀さを認めず、民衆
の権利を蹂躙することに取り組んだのか。

 そして最後に人々は、私たちが就任のとき宣誓した民衆への奉仕という主たる
任務と預言者の伝統に対して忠実であったかどうかによって、私たちを裁くこと
でしょう。

(続く)

【訳注 「彼の上に平安あれ」 イスラム教徒はイエスをムハンマドの直前に現
れた預言者として敬意を払う。預言者の名を唱えるときは、彼の上に平安あれ、
と唱えるならわしである 】

原文URL: http://www.globalsecurity.org/wmd/library/news/iran/2006/iran-060510-irna01.htm