TUP BULLETIN

速報658号 ワタダ中尉軍法会議の真相(第2部) 070226

投稿日 2007年2月26日

FROM: hagitani ryo
DATE: 2007年2月26日(月) 午前10時18分

イラク戦争派遣拒否のワタダ中尉の軍法会議―勝利か審理再開か
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自ら派遣拒否兵で軍法会議にかけられた経験のあるジェフ・パターソンのワタダ
中尉軍法会議報告、前号の続きです。米ワシントン州フォートルイスで開催された
ワタダ中尉軍法会議は2月7日、「審理無効」を宣言して閉じられました。軍法会
議でいったい何が起こったのでしょうか。またその意味は何でしょうか。
ここに報告される審理後半は、ワタダ中尉の主張を正面から取り上げたくないと
いう自分の底意を隠して、手続き上の問題に拘泥する判事の様子を描いています。
その姿は何だかこっけいでもあります。
 末尾に問題となった「訴訟上の合意」抄訳を添付しました。(TUP/池田真里)
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ワタダ中尉、軍法会議審理無効は明らかに勝利である
ジェフ・パターソン
(前号からの続き)

判事、判断を誤り意見の不一致を主張する

水曜日(2月7日)午前、予定されていたワタダ中尉の証言に先立ち、ヘッド判
事は予想外にも訴訟の合意文書に異議を唱えた。この判事の異議は、陪審に対す
る説明を求めた一見些細な提案にもとづくものだった。この弁護側からの提案は、
単に「ワタダ中尉は、イラク戦争は違法であるという信念にもとづいて意図的に
赴任しなかった」ということを陪審に説明することを求めたものだった。サイツ
は、それ以前の申し立てがすべて拒否されたので、この説明が許可されるとの
「期待はまったく」もっていなかったと後で語っている。

しかし、ヘッド判事は、イラク戦争の合法性は自分の満足にはまったく無関係な
ことだと知的に問題にケリをつけていたので、「意図的に派遣命令に従わなかっ
た」というワタダ中尉の事実合意は判事の意見では「有罪告白の合意」となった。

弁護人たちの反対にもかかわらず、ヘッド判事は、ワタダ中尉に意図について質
問すると言い張った。証言台に立たせてではなく、被告席に座ったままでである。
サイツはそのような質問には何ら法的根拠がないと反対したが受け入れられなかっ
た。

ワタダ中尉は再び次のように述べた。「私が意図的に移動しなかったのは、イラ
クでの軍事行動に参加することは、戦争犯罪と自分が違法な戦争と信じるものに
加担することだと考えたからです。」 ヘッド判事は、しかしあなたは自分に「移
動を行う義務がある」と考えたでしょうと質問した。「いいえ、私は自分にその
ような義務があるとは考えませんでした。私は、自分が違法と考える事柄を行う
よう命令されていたのです。政府と軍の下した裁定は私と反対でしたが、だから
といって、それで私の考えが否定されるわけではありません」と中尉は答えた。

ヘッド判事は、事実に関する合意についての自分自身の誤解(ワタダ中尉や弁護
人や検察の誤解ではなく)にもとづいて、ワタダ中尉は、罪を認めると同時に無
実を主張しようとしていると考えたらしい。

他のどの関係者からも賛同を得られない、自分で陥った解決可能なはずの矛盾の
ために、ヘッド判事は先へ踏み出し、事実合意についての審問を開始した。サイ
ツは「こんな審問を行う権限は判事にはなく、これは正当化しえない」と抗議し
た。

検察、弁護にまわる

「正式事実審理前の合意の意味に関して、意見の相違があってはならない。現在
双方の合意がない。」とヘッド判事は宣言し、「法的義務かそうでないか」にか
かわらず「あなたはどう考えたのか?」とワタダ中尉に質問した。「[合意書に]
付加的証拠があり、それが私の弁明になると考えます」と中尉は答えた。

サイツが繰り返した。「その限りでは、それは事実に関する合意であって、自白書
ではありません。これは私たちの一貫した立場です。」

検察側のヴァン・スウェリンジェン大尉は、政府にとって事態が悪化しつつある
のを見て取って、被告側弁護士のエリック・サイツの支持に回った。「双方が事
実に合意しました。合意がありました。ワタダ中尉がイラク戦争は違法であると
いう考えにもとづいて中尉が無実を主張していることには、何の疑念もありませ
ん。検察は、これがあくまで事実の合意であることに同意します」とスウェリン
ジェンは述べた。

しかしながら、ヘッド判事は、ワタダ中尉の信念は裁判に無関係だと決定してし
まっており、これを極度の厳格さで貫く構えであるため、スウェリンジェンの意
見はとても受け入れられなかった。最後にもう一度、ヘッド判事は質問した。
「派遣はあなたにとってどういう意味をもつでしょうか」。lワタダ中尉は答え
た。「私にとって、自分が違法と考える戦争に従事することを意味します」

弁護側も検察側も、ワタダ中尉の考えは、明瞭に述べられており、一貫している
と言った。
「しかしながらこの合意文書に関して、被告側は、先に争われた申し立てと異議
に関する将来の訴訟上の請求権を放棄しません」

「政府は私の問題を理解しますか」とヘッド判事は検察側に聞いた。「率直に言
って理解しません」とヴァン・スウェリンジェンは、腕を組みうつむいたまま答
えた。「被告は無実を主張しています。被告が証拠があるというなら、法廷はそ
れを聞くべきです」と、この軍法会議を先に進めることを期待するスウェリンジェ
ンは、「ニュルンベルグ弁護」[被告は上官の命令に従っただけなので罪には問
われないとする]その他どんな問題でももちだしてほしいといった様子で提案し
た。

弁護側の反対をおして審理無効とされた

「今この場で、どう受け入れろというのか」と、ヘッド判事は合意を放棄した。
合意書を無効にされて、検察はもはや陪審に示すべき証拠がなくなった。ヘッド
判事は、検察に対し訴訟の延期に従わず再開することを認めようと言ったが、証
言の日を取り消すことについては、「いったん鳴らしたベルをどうやって元にも
どすのか」と、気取った言い回しで尋ねた。すべては、無効にされたすでに陪審
員検討済みの合意文書にもとづいているのである。

これらすべてにおけるヘッド判事の動機については、ワタダ中尉が合意に関する
誤解の問題で上訴する可能性を閉ざすつもりだったということが考えられる。他
の関係者は、サイツの「二重危険」の警告にもかかわらず、判事は検察が「やり
直し」をしても問題ないと思い込んだのだと考えた。

検察団に上官と訴訟の方針を協議する時間を与えるため何度か長い休憩があっ
た後、ヘッド判事は「政府としての選択は?」と検察側に聞いた。ヴァン・スウェ
リンジェンはがっくりして、つぶやいた。「この時点において、政府としては審理
無効を提議します」

ヘッド判事は、ただちに新たな審理を3月19日に開始すると決めたが、日時につ
いては被告側弁護士の都合によって変更もあるとし、早くて5月となる可能性が高
いとした。「この裁判は訴訟事件一覧表の最優先事項となる」

今後の「米国対ワタダ」裁判は疑問

瑣末な問題のために裁判を放棄しようとしたのでないとすれば、ヘッド判事は自
分が何を提案したか十分理解しているように思えない。被告側主席弁護士のエリッ
ク・サイツは、この劇的な1日を説明して、「専門家として私は、ワタダ中尉が
二重危険の効力によって再度裁判にかけられることはないと考えている。弁護側
は、審理無効を正当化するようなことは何もしていない。判事は自分だけで、あ
るいは政府の申し立てによりこの裁定をすべて行ったのだ。二重の危険に対する
保護は、憲法上の問題として適用される」と述べ、「この裁判は何週間か何ヶ月
前の状態に戻った。これは二度と復活することはない、また復活できないと私は
考えている」と付け加えた。

この時点で、さまざまな可能性がある。政府が、いったん取り下げた起訴内容2件
を何とか再び持ち出して、ジャーナリストを再召喚する可能性。ワタダ中尉が春か
夏に新たに禁固6年の刑を受ける可能性のある軍法会議にかけられる可能性。さま
ざまな可能性のうち、どれが最も確率が高いか示すことは不可能である。

ひとつはっきりしていることがある。太平洋岸北西部、全米、全世界から千人を
超す人々がフォートルイスに集まり、軍法会議の終わる週末にワタダ中尉のため
に中尉が収監されないようにという一心で集会とデモを行った。昨年6月に始ま
ったワタダ中尉と軍内で抵抗する人々を支持する、かつてない全米規模の運動が
このたびの成果をもたらしたことは疑いない。

フォートルイスのスポークスマンがニューヨークタイムズに語ったように、ワタダ
中尉の軍務契約の終了が近いことを考えると、新たな裁判を政府が起こすことがで
きなければ、このたびの審理無効により、またもう一つの可能性、陸軍で初めてイ
ラク派遣を拒否した将校が、この3月に退職し現役引退を許可されるという可能性
がきわめて現実的になったといえる。

原文:http://www.lewrockwell.com/orig8/paterson1.html

(参考)以下は「訴訟上の合意文書」の抄訳です。
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合衆国陸軍第4巡回裁判所

合衆国 対 エーレン・ワタダ  合衆国陸軍中尉
第一軍特別部隊大隊司令部付中隊
ワシントン州フォートルイス
(郵便番号98433-9500)
事実に関する合意

検察と弁護人は、被告による明示的同意を得て、次の3点につき合意し、ここに
明記する。すなわち、以下の事実は真実であること、これらの事実を証拠として
認められないとする可能性のあるすべての証拠規則、軍法会議規則にかかわらず、
これらの事実は証拠として認められること、および、これらの事実ならびにここ
に参考として同封する資料は、軍パネル[陪審に相当] により、本軍法会議の原告
の請求と被告の反駁および判決言渡し手続き前の各段階において考慮されること
ができ、また適切な量刑決定における判決言渡し当局を含め、軍判事、軍パネル、
上訴裁判所、または召集当局により考慮されることができること。これら合意さ
れた事実は、たとえ他の場合には証拠として認められなくても、本軍法会議にお
いては証拠として認められる。被告は、これらの事実を証拠として許容すること
に関し、被告が持ちうる異議をすべて放棄する。ただし弁護人は、以前に提起し
た申立および異議に関する今後のいかなる請求をも、この合意によって放棄する
ことはない。

合意された事実

起訴内容と起訴明細

1.2006年2月、ワタダ中尉はナショナル・トレーニング・センターにおいて、
部隊が近々イラクに派遣されることを知りつつ彼の部隊と訓練していた。2006
年3月から6月までの数多くの機会に、ワタダ中尉は、2006年6月に部隊とと
もにイラクへ配置される義務が彼にあることを通知された。2006年6月に数回、
ワタダ中尉は、彼については2006年6月22日の朝配置される義務のあること
を通知され、詳細な搭乗情報を与えられた。

2.2006年6月7日、ワタダ中尉はワシントン州タコマにおいて、イラクに派
遣されないという決意についてビデオテープにより声明を発表した。添付のビデ
オ(同封物1参照)はこの意見公表の真正で完全に公正かつ正確な表示である。2
006年6月7日におけるこのスピーチにおいて、ワタダ中尉は次のように述べた。

<以下今井恭平さん訳によるワタダ中尉の声明>

 http://blogst.jp/momo-journal/archive/64

3.2006年5月28日[原文6月7日に手書きで修正]、カリフォルニア州サン
フランシスコにおけるニュース記者セーラ・オルソンのインタビューにおいて、ワ
タダ中尉はイラクに派遣されないという決意について意見を公表した。セーラ・オ
ルソンは、このインタビューをワタダ中尉の了解を得て2006年6月7日公表し
た。このインタビューにおいて、ワタダ中尉は次のように述べた。

<以下Truthout からセーラ・オルソンのインタビュー>

http://www.truthout.org/cgi-bin/artman/exec/view.cgi/61/20326

4.2006年6月22日10時00分頃、ワタダ中尉は意図的にイラク行きの飛
行機による移動を履行しなかった。ワタダ中尉は2006年6月22日の飛行機に
搭乗することとされていた(フライトナンバー BMYA9111173)。彼の部隊は、20
06年3月、4月、5月、6月に数多く彼に通知しており、また特に彼に対し搭乗
要件を詳述した必須文書を渡していたので、彼は、義務である移動の日時を含め派
遣に関する搭乗情報について知っていた。さらに、ブルース・アントニア中佐はワ
タダ中尉に対し、2006年6月22日マッコード空軍基地からのフライトについ
て話していた。また派遣の搭乗詳細について特にワタダ中尉に指導助言していた。
2006年6月19日、ワタダ中尉は指導助言報告書に、移動の詳細も含め彼の派
遣義務を承認するとして署名した(同封物2参照)。2006年6月22日午前、
ワタダ中尉が大隊の搭乗呼び出しに応じなかったとき、アントニア中佐はワタダ中
尉に再度指導助言し、彼に装備を引き出して、旅団の搭乗呼び出しに出頭するよう
命令した(同封物3参照。この文書は実際に署名されたのは2006年6月21日
ではなくて2006年6月22日午前である)。ワタダ中尉は、旅団の搭乗呼び出
しに出頭せず、オフィスにとどまった。その後すぐ派遣される兵士たちを載せてバ
スはフォートルイスからマッコード空軍基地へ向かった。ワタダ中尉は、バスに乗
ることを選択しなかった。2006年6月22日10時00分頃、マッコード空軍
基地で派遣される兵士たちは飛行機、フライトナンバーBMYA91111173に搭乗し、イ
ラク、モスルに向かった。ワタダ中尉は意図的に飛行機に乗らず、その結果フライ
トナンバーBMYA91111173による移動を履行しなかった。

5.2006年8月12日[原文は12日となっているが実際は14日]、ワタダ中
尉はワシントン州シアトルにおける「平和を求める復員軍人」全米大会において、
意見を公表した。添付のビデオ(封入物4参照)はこの意見公表の真正で完全に公
正かつ正確な表示である。2006年8月12日ワタダ中尉は次のように述べた。

<以下今井恭平さんのワタダ中尉スピーチ抄訳>

http://blogst.jp/momo-journal/daily/200608/17

6.この事実の合意に見いだされるワタダ中尉の意見表明は、すべて真正である。
すべての当事者はこれら意見表明とインタビューの真実性と信頼性に合意する。
[以下原文がありません。原文全12ページとされているうちの11ページまで。
また途中6,10ページが欠けています。途中欠けているのはセーラのインタビュ
ーの一部、復員軍人会でのスピーチの一部です]

原文はシアトル・タイムズ掲載のもの

http://seattletimes.nwsource.com/ABPub/2007/02/07/2003562033.pdf