TUP BULLETIN

速報781号 イラク・アフガニスタン帰還兵の証言 No.4 ジェフリー・スミス

投稿日 2008年9月29日

DATE: 2008年9月30日(火) 午前8時47分

冬の兵士 ジェフリー・スミス 人種差別と戦争: 敵を非人間化する(1)

訳 岩間龍男 / TUP冬の兵士プロジェクト


──今こそ魂が問われる時である。夏の兵士と日和見愛国者たちは、この危機 を前に身をすくませ、祖国への奉仕から遠のくだろう。しかし、いま立ち向か う者たちこそ、人びとの愛と感謝を受ける資格を得る──

トマス・ペイン、小冊子「アメリカの危機」第1号冒頭 1776年12月


メリーランド州シルバースプリング公聴会 2008年3月13〜16日

ジェフリー・スミス 画像出典:IVAW 証言ビデオジェフリー・スミスです。1997年9月、歩兵として陸軍に入隊、第3歩兵師団に 現役兵士として3年間服務し、さらに6年間フロリダ州兵として兵籍に留まりま した。第124歩兵連隊第2大隊B中隊の擲弾(てきだん)兵として2003年5月初旬に イラクのバラドにあるキャンプ・アナコンダに配属され、2004年1月に満期除 隊しました。

自宅はフロリダ州のオーランドです。私は軍人の家庭に育ちました。父親はベ トナム戦争で二度戦地に送られ、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と枯葉剤被曝 で復員軍人省から障害度100%と認定されています。

バラドに配属されると、私の部隊は主に基地のゲートと周辺を警備する任務を 与えられました。キャンプ・アナコンダはイラクで最大の恒久基地です。正面 ゲートで安全を確保するため、毎日やってくるイラク人の身分をひとりひとり 確かめてから通過させることも任務に含まれています。彼らは砂を袋に詰めた り、瓦礫やがらくたを片づけたりしていました。1日1ドルが支払われ、昼食に 軍の携行食を与えられ、猛暑と埃のひどい状況の中で働いていました。気温は しばしば摂氏50度を超えます。イラク人たちにはいつも武装警備員が同行して いました。

特にイラクに初めて到着したころ、基地周辺の家を襲撃することも、ときおり 命じられた任務のひとつでした。最初に襲った家は、元バース党幹部の自宅と 考えられていました。この家を襲撃したのは昼日中のことです。

近くに来たとき、正門をこじ開けて踏み込むことになっていると言われました。 しかし、私たちといっしょにいた機甲部隊には別の計画があったようでした。 彼らは家の正面の塀を倒し、中にあった自動車を破壊しました。敷地に入る際 に、私は門から入った隊列の前から2番目にいました。この時、中庭に年老い た女性がいて何か分かりませんがアラビア語で叫んでいました。私は彼女を脅 威とは思わなかったので、通り過ぎて建物の中に入って行きました。

私の後に続いていた兵士は脅威と見なしたらしく、その女性の顔を銃の台尻で 殴り、地面に倒しました。後から来た誰かが簡易手錠をかけ、前庭に連れて行 ったようでした。

それから私たちはこの家の「捜索」にかかります。主寝室には鏡台や洋服タン スがあり、洋服タンスは鍵がかかっていました。ドアをもぎ取り、部屋にある ものを全部ひっくり返しました。全部です。台所にいた私の部隊の隊員たちは、 冷蔵庫をひっくり返し台所のオーブン付きレンジを引っ張って壁からひっぺが して壊し、つながっていた電線を切ってしまいました。

この家を「捜索」し、前庭の芝生で子どもを含むすべての人々に簡易手錠をか けた後に、上官の誰かが間違いに気づくことになります。私たちは間違った家 を襲撃し、間違った通りにいて、襲撃するはずだったのはこの家の裏手の家で、 別の通りにあったのです。そこで私たちはその家に行って襲撃しました。

実を言うと、その家の門を入って行くとき、私はほんとにもう少しで人を撃つ ところでした。この人は知的障害があったのではないかと思います。見たとこ ろ、彼は何が起きているのか理解していないようです。私たちの真正面の窓辺 に立っていたので、門をくぐる最初の数秒間に、私は彼を脅威だと思い、あや うく銃撃しかけました。が、何か様子がおかしいのです。目の前の状況を理解 していないだけだと気づきました。

私たちはその家を「捜索」し、目的の人物を拘束しました。家の「捜索」を始 めるとすぐに、書斎でも寝室でも山ほどの書類を見つけました。おそらく地元 の高校か大学の代数の先生のように私には思えました。多量の数学の問題の紙 束があったからです。この人が元バース党の幹部と考えられていました。

彼を捕らえて頭に麻布袋をかぶせるとトラックに乗せ、キャンプ・アナコンダ に向かいました。彼は私の分隊と同じ車両に乗りました。キャンプ・アナコン ダまでは45分ほどでしたが、途中、分隊長はこの男と並んで写真を撮ったら面 白いと思いつき、私に撮ってくれと言います。私は断りました。やっていいこ ととは思えなかったからです。兵舎に到着するやいなや、このためにかなり長 い時間、体罰を含む懲戒を受けました。分隊の前で分隊長の命令にそむいたか らです。

イラクでの経験で私にとって転機になったのは、非番の夜に起きたある事件で した。私の中隊には、どう表現してよいか分かりませんが、強硬な小隊があり ました。どの部隊にも他よりやりすぎる小隊がひとつあるものです。この小隊 の分隊が、いわゆる待ち伏せをしていました。でも実際には、基地を取り囲ん でいる農場に隠れて、夜間外出禁止時間が始まっても外出している者を拘束し ようとしていたのです。そんなわけで彼らはその夜、そこにいました。農民が 自分の敷地にいたのは明らかでした。午前3時頃だったと思います。当時は停 電がしょっちゅうありました。その人は外に出て農場でポンプか何かを修理し ていたのだと思います。分隊の兵たちは動くなと命じましたが、彼はパニック になり走り出しました。兵たちは発砲して、その男を殺してしまいました。

翌日、民事部がやって来て私たちから事情を聞き、中隊として「この家族に給 付金は一切払わない」と言いました。また、このように聞かされました。この 男の弟はこれまでずっと米軍に協力してきており、地域社会では尊敬される指 導者であったこと、そして私たちが殺害した人物には14人の子どもがいたとい うことでした。民事部の将校は、一人あたり1、2ドルの寄付を集めその家族に 贈ってはどうかと提案しました。そうすれば、遺族を慰めるのに大いに役立つ だろうと思うと将校は言いました。ライフル中隊にはおよそ125名の隊員がい るので、125ドルから150ドルの話をしていたわけです。実際は誰も寄付しなか ったと思います。

最後に、これがおそらく私にとってもっとも話すことが難しい出来事です。ち ょっとすみません。[水を飲む]

イラクを去る数ヶ月前のある朝、私は正面ゲートの後ろで警備の最後列にいま した。私はそこにあった機関銃を担当していました。誰かが正面ゲートを突破 したとしても、基地内に入れないようにするためです。早朝のことで、私は目 元が落ちくぼみ、気分がよくありませんでした。そしてハムヴィー[高機動多 目的装輪車両、ディーゼル式軍用車]が正面ゲートを通り抜けるのを見ました。 その車は、イラクでよく見かける小型トラックを牽引していました。何が起き ているのか、遠くからでしたので実際のところ分かりませんでした。近づいて くるにつれて、その小型トラックは弾丸と榴散弾で穴だらけになっていること が分かりました。タイヤのひとつはパンクしていたと思います。

私の前を通り過ぎたとき、見たところ、つまり何があったかというと、その早 朝にこの小型トラックを使って米軍の車列への攻撃があったのです。彼らが通 り過ぎたとき、小型トラックがこの攻撃で殺害された武装勢力メンバーの死体 でいっぱいだということに私は気づきました。武装勢力は明らかに大きな口径 の武器、おそらく50口径のMk19自動擲弾銃で応戦されたのでしょう。首を落と された幾つかの死体がありました。死体には大きな穴があいていました。

忘れることができないのですが、とても若い上等兵がいました。彼は小型トラ ックの後部に立ち、通り過ぎる時に私の目の前で落とされた首を持ち上げてい るではありませんか。とても乱暴な言葉で「こいつらをやっつけてやったよ」 というようなことを言っていました。小型トラックの後部にはその上等兵とい っしょに別の兵士がいました。彼らは山積みされた死体の上でお祭り気分にな っています。私にはこれらの「武装勢力」は、皆が言うような無情なテロリス トのようには見えませんでした。ほとんどは10代の少年か若者で、地元の人間 のように見えたのです。

最後に私の話を終わるにあたって、イラクの人々にお詫びをしたいと思います。 イラクにいたとき、私が加担したこと、私の部隊と私自身もやったことについ てです。ありがとうございました。

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凡例: ( ) は英文の略称、ルビ。 [ ] は訳文の補助語句。

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2008年9月、反戦イラク帰還兵の会(IVAW)、冬の兵士の証言集を全米で刊行。

仮題『冬の兵士証言集──イラク・アフガニスタン帰還兵が明かす戦争の真相』
編集アーロン・グランツ

Winter Soldier: Iraq and Afghanistan: Eyewitness Accounts of the Occupations, by Iraq Veterans Against the War, edited by Aaron Glantz,
(Haymarket Books; September, 2008).
>>Haymarket Books
>>amazon.com

★岩波書店より刊行予定。現在、TUPにて邦訳作業中。

 イラク戦争を追いつづけてきたジャーナリストが『証言集』の書評を書いている。

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  • TUP冬の兵士プロジェクト 証言の一覧
  • ジェフリー・スミスの証言ビデオ
    http://ivaw.org/wintersoldier/testimony/racism-and-war-dehumanization-enemy-part-1/jeffrey-smith/video
    http://warcomeshome.org/content/jeffery-smith
  • 反戦イラク帰還兵の会 公式サイト
    Iraq Veterans Against the War
    http://ivaw.org/
  • 反戦イラク帰還兵の会「冬の兵士」特集ページ
    Winter Soldier: Iraq & Afghanistan
    Eyewitness Accounts of the Occupations
    http://ivaw.org/wintersoldier
  • KPFAラジオ プロジェクト"The War Comes Home"
    http://www.warcomeshome.org/