TUP BULLETIN

速報782号 イラク・アフガニスタン帰還兵の証言 No.5 ジェフ・ミラード

投稿日 2008年10月10日

DATE: 2008年10月11日(土) 午前3時24分

冬の兵士 ジェフ・ミラード 人種差別と戦争: 敵を非人間化する (2)

訳 川井孝子 / TUP冬の兵士プロジェクト


今こそ魂が問われる時である。夏の兵士と日和見愛国者たちは、この危機を前 に身をすくませ、祖国への奉仕から遠のくだろう。しかし、いま立ち向かう者 たちこそ、人びとの愛と感謝を受ける資格を得る。

トマス・ペイン、小冊子「アメリカの危機」第1号冒頭 1776年12月


メリーランド州シルバースプリング公聴会 2008年3月13〜16日

ジェフ・ミラード 画像出典:IVAW 証言ビデオジェフ・ミラードです。反戦イラク帰還兵の会のワシントンDC支部長をしてい ます。ニューヨーク州の陸軍州兵部隊に9年間所属していました。そのうち13 ヶ月は軍曹として「イラクの自由作戦」に参加しています。この間の主な駐屯 地はスペイサー前進作戦基地でした。軍務期間の終わり、つまり軍隊でのキャ リアの終わりの9ヶ月間は無許可離隊の状態になっていました。軍から名誉除 隊の通知が届いたのは2007年5月です。

9/11事件以降に軍隊にいた者、特に9/11事件以降に戦地に派遣された兵士の間 では周知の事実ですが、軍では人を非人間化するために「ハジ」という言葉を 使います[ハジは本来はメッカ巡礼を終えたイスラム教徒を意味する]。イラク 人やアフガニスタン人にかぎらず、ともかくこちらと違う人間はハジと呼ぶの です。

ハジの店で、ハジの店員から、ハジのDVDを買う。洗濯係をしていたKBR社 [アメリカの民間軍事企業ケロッグ・ブラウン・アンド・ルート]の従業員は パキスタン人でしたが、ハジと呼ばれていました。食堂で働いていたKBRの従 業員たちもハジです。米軍の兵士でない者はだれでもハジと呼ばれる。人じゃ ない。名前じゃない。ただハジなんです。特に白人以外の仲間がこの言葉を使 うことが多くて、私はショックを受けていました。どうしてハジという言葉を 使うのか、部隊の仲間に聞いてみたものです。でもたいていは同じ答えが返っ てきました。

「ただのハジだろ。どうだっていいじゃないか」

ハジという呼び方は、私のような下っ端の軍曹レベルからずっと上の中佐まで、 部隊のあらゆる階級で使われていました。実際に耳にしたなかで、この言葉を 使っていた最も地位の高い将校は、私がイラクに派遣されていたときに最高司 令官だったケーシー将軍でした。私が所属していたのはスペイサー前進作戦基 地の第42歩兵師団後方作戦センターですが、部隊がケーシー将軍に状況報告を したとき、将軍がイラクの人たちのことをハジとよぶのを何回か聞いています。 この言葉は、将官のレベルでも何人も使っていました。直属の上官だったサリ バン准将も、第42歩兵師団指揮官のタルト中将も、イラク人のことをハジと呼 んでいた。こういうことは上から始まるものです。下からじゃない。[拍手]

皆さんにぜひ聞いてもらいたいことがあります。派遣期間中、おぞましい経験 は何回かありましたが、そのひとつです。今でも忘れることができません。あ れは2005年の夏の初めごろ、私が状況報告をした会でのことです。

イラクやアフガニスタンに派遣された兵士はみな同じような感覚を持つように なるんですが、1年が1ヶ月に、1ヶ月が1日に、1日が1秒になります。その1秒 が繰り返される。何度も何度も何度も現れるんです。派遣期間中だけでなく、 その後の人生ずっとです。だから、正確な日付がわかればいいのですけど、あ いにくその日も1秒になってしまっています。その1秒がいつまでも繰り返し意 識に戻ってきます。

2005年初夏のその日、第42歩兵師団の作戦地域に設けられた交通管制地点で銃 撃がありました。イラクでは、交通管制地点での銃撃は珍しくはありません。 ほとんど毎日のように起こります。その日は、交通管制地点にスピードを出し て向かってくる車があったのです。機関銃の射手を務めていた兵士が瞬時にこ の車両を脅威と判断して、50口径の弾丸200発を撃ち込みました。1分もかから なかった。この若い兵士が殺したのは、母親、父親、そして子どもが2人。男 の子は4歳、女の子は3歳でした。

その日の夕方、将軍に対する状況報告会に私も出席していました。担当官がこ の事件について顔色も変えずに説明しました。すると、第42歩兵師団で後方支 援司令部の司令官だったロシェル大佐が、その場にいた師団全員の方にくるり と椅子を向けてこう言ったんです。

「ハジの馬鹿どもが運転の仕方を知っていたら、こんなクソみたいなことには ならなかったのにな」

私は作戦センターを見回しました。いるのは将校や下士官たち、ほとんどが上 官です。軍曹の私はその部屋で一番下の階級だったでしょう。ところが、だれ も大佐の言葉に抗議するそぶりは見せませんでした。納得いかない様子で首を かしげる人さえ、一人もいなかった。全員が大佐の言うとおりだと思っていた んです。ハジの馬鹿どもが運転の仕方を知っていたら、こんなクソみたいなこ とにはならなかったんだと。信じられませんでした。でも本当にあったことで す。このことが派遣期間中ずっと頭を離れませんでした。

「ハジ」という言葉が聞こえるたびにあたりを見回しました。そしてあの事件 をこれから一生背負っていくことになる射撃手のことを考えました。あの日血 筋が絶たれてしまったイラク人家族4人のことを考えました。そんなこと、ロ シェル大佐はこれっぽっちも考えないでしょう。人種差別と非人間化にすっか り染まっているのですから。人種差別と非人間化は、この戦争の最高司令官 [であるブッシュ大統領]から始まって命令系統の一番下まで、組織の隅々に浸 透しているのです。[拍手]

他のパネリストの皆さん、それから「冬の兵士:イラクとアフガニスタン── 占領を目撃した兵士の証言」プロジェクトを通じて公には伝えられないけれど、 証言を寄せてくれた皆さん、あるいは申し出てくれた皆さん、一人ひとりにお 礼を言いたいと思います。アメリカの歴史の中でも最高の愛国者である皆さん と、この壇上でご一緒することができて本当に光栄でした。軍服を着ていたと きにも、これほど大きな誇りを感じたことはありません。ありがとうございま した。


凡例: [ ]は訳文の補助語句。


2008年9月、反戦イラク帰還兵の会(IVAW)、冬の兵士の証言集を全米で刊行。

仮題『冬の兵士証言集──イラク・アフガニスタン帰還兵が明かす戦争の真相』
編集アーロン・グランツ

Winter Soldier: Iraq and Afghanistan: Eyewitness Accounts of the Occupations, by Iraq Veterans Against the War, edited by Aaron Glantz,
(Haymarket Books; September, 2008).
>>Haymarket Books
>>amazon.com

★岩波書店より刊行予定。現在、TUPにて邦訳作業中。

 イラク戦争を追いつづけてきたジャーナリストが『証言集』の書評を書いている。

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  • TUP冬の兵士プロジェクト 証言の一覧
  • ジェフ・ミラードの証言ビデオ
    http://ivaw.org/wintersoldier/testimony/racism-and-war-dehumanization-enemy-part-2/geoff-millard/video
    http://warcomeshome.org/content/geoff-millard
  • 反戦イラク帰還兵の会 公式サイト
    Iraq Veterans Against the War
    http://ivaw.org/
  • 反戦イラク帰還兵の会「冬の兵士」特集ページ
    Winter Soldier: Iraq & Afghanistan
    Eyewitness Accounts of the Occupations
    http://ivaw.org/wintersoldier
  • KPFAラジオ プロジェクト"The War Comes Home"
    http://www.warcomeshome.org/