TUP BULLETIN

速報828号 アン・ライト「抵抗するグアム」

投稿日 2009年10月7日

 ◎沖縄からの海兵隊移転がグアムに及ぼす影響


2006年5月の在日米軍再編ロードマップを受けて、「在沖縄海兵隊のグアム移転に係る協定」は、2009年2月17日、クリントン米国務長官が来日して署名し、4月に衆院を通過、参院で否決されたものの、5月19日、自民党政権末期に駆け込み発効しました。米政府はこの協定を理由に、8月30日の衆院選後すぐ、民主党の在日米軍再編見直しを牽制しました。
日本が沖縄からの海兵隊の移転費用として出す多額の資金は、グアムの軍備強化という米軍の戦略の財源として使われます。積算根拠もない日本の拠出金による軍備強化がグアム島民に沖縄のように重い負担を強いるとアン・ライトは警告します。〔翻訳: 荒井雅子/TUP〕


※凡例: [訳注]
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軍による植民地化に抵抗するグアム
——25%の人口増を図る米政府、発言権をもたない住民——
アン・ライト
2009年8月17日(月)「コモンドリームズ」ウェブサイト掲載

米中両国の政府には、植民地政策となると、きわめてよく似たところがある。中国政府は、多くの漢民族植民者をチベットに送りこんでチベット民族を数で圧倒し、人と物資を送るために世界で最も標高の高い鉄道まで敷設している。

米国政府は、[連邦レベルの]選挙権のない米領グアムで、地元政府や住民の意向をほとんどまったく聞かずに、人口を25%も増やしつつある。8000人の海兵隊員とその家族、関係する後方支援部隊と人員——合計4万2000人の新住民——が、現人口17万5000人のこの太平洋の小島(面積はワシントンDCの3倍そこそこ)に移されることになっている。この移住は、島の文化的な、そして社会的な独自性にとてつもなく大きな影響があるだろう。

これらの部隊がグアムに移転する主な理由は、沖縄の市民活動が組織した「米軍基地閉鎖」運動による。第二次大戦終結以来、米国は沖縄に大規模な軍隊を駐留させてきた。

太平洋地域での米国の国益について、私はそれなりに知っているつもりだった。ミクロネシア駐在外交官として2年間勤務し、ホノルルから飛行機で西へ8時間の米領グアムを訪れたことも何度もあった。

でも今月、コードピンク大阪をはじめとし、元国会議員一人も含む日本の平和運動グループがスポンサーとなった研修ツアーでグアムに行き、かくも大量な米軍部隊の移転という決定がもつ新しい側面を知った。

16世紀にまずスペインによって植民地化されたグアムは、1898年、米西戦争に勝利した米国に戦利品として割譲されて植民地となり、フィリピンに向かう船の停泊地となってきた。第二次大戦中の1941年12月8日、真珠湾攻撃の翌日に日本軍の攻撃を受け、占領された。島の米国人住民は、攻撃前に米国政府によって退避させられていたが、地元チャモロ人は置き去りにされていた。2年7カ月にわたる日本占領下、チャモロ人は日本軍による強制労働、強制収容所、強制売春、強姦、処刑を耐え忍んだ。米軍は3年半後の1944年7月21日、グアム奪還のために戻った。

1950年、米議会で制定された法により、グアムは「未編入領域[憲法が完全に適用されない海外領土]」とされ、世界に残る16の「非自治地域」の一つとして、住民に米国籍が与えられた。

第二次大戦後、米軍は、何の補償もなく地元住民から土地を接収し、重要な空軍・海軍基地を建設して、今も使用している。現在、空軍3000人、海軍2000人の兵員と、その他の連邦安全保障関係部局の職員1000人がグアムに配置されている。

3人のグアム議会議員の話によれば、米海兵隊の大規模移転をめぐる日米両政府の折衝で、グアム政府はきちんと意向を聞かれていないという。
グアム政府官僚には、軍拡大計画に関するしっかりした情報がほとんど与えられていない。グアム財政は、この熱帯の島を毎年訪れる数十万の日本人がもたらす観光収入によって支えられており、島のさらなる軍事化による影響を、官僚たちは非常に懸念している。

移転してくる海兵隊の実弾射撃訓練場を確保するために、地元チャモロ人の所有する土地950エーカー(約3.8平方キロメートル)が、さらに強制収用の対象となるという噂が彼らを悩ませている。ベトナム戦争のエージェント・オレンジ[枯葉剤]の残りをはじめとする基地の有害廃棄物、さらに劣化ウランから作られる砲弾などの弾薬が島で使われる可能性もまた、グアム住民の懸念材料になっている。

8000人の海兵隊員を沖縄から退去させるため、日本政府は移転費用として60億ドルを米政府に支払っている。25%の人口増を引き受けるには島の道路、上下水道、送電網に大規模なインフラ整備が必要となるだろうが、移転資金のうち、十分な額がこのインフラ整備にあてられないのではないかというのが、グアム官僚たちの懸念である。軍は基地の整備はしても、住民に対しては、多くの兵員の移転で生じるインフラ問題に苦労するに任せるだろうと彼らは思っている。

日本市民もまた、米軍を日本から退去させるために米政府に支払った数10億ドルの詳細について、蚊帳の外に置かれている。私たちの調査団の日本人メンバーたちは、地元グアムの活動家たちから、グアムでの中流階級の住宅の建設費は25万ドル前後であり、一方、移転予算では、基地での新築費用として一軒あたり65万ドルが日本政府に求められていると聞き、非常に驚いた。日本政府がそうした水増し計画に資金提供していることを日本側調査団は大変懸念し、帰国後に国会議員に対して、予算をめぐる
問題提起をする予定でいる。

グアム産業界にとっての懸念は、間もなく始まるグアムでの米軍の建設プロジェクトで、25億ドル以上に上る契約について米下院議員たちが日本の建築業者に米国企業と同じ入札資格を与えようと考えていることだ。日本政府は米国政府と同様「海外で」資金提供する政府開発援助計画から自国の企業に利益が得られるようにしている。海兵隊の移転費用100億ドルのうち60億ドルを負担している日本は、グアムでのインフラ整備プロジェクトの建設契約を通して資金の一部が日本に還流することを望んでいる。

多くのグアム政府官僚も大勢の市民も、海兵隊の移転による人口の大幅な増加と島の軍事化がもたらす、文化的、経済的影響、また安全保障上の影響に強い懸念を抱いている。基地内で比較的裕福に暮らし、住宅、学校、サービスの面で恵まれている層との間にある文化的断絶は、何年も米軍と地元住民との摩擦の原因になってきた。

グアム官僚は、グアム政府が財政的に逼迫している中、米軍基地施設でのきわめて高額の支出に困惑を禁じえないと述べた。米空軍が最近、2700万ドルをかけて基地内に動物用の小屋を建てたと知って、驚愕したという。動物用の一スペースあたり10万ドル。地元では行政が、動物どころか市民にさえ、十分なインフラを提供できずにいるときにである。

グアム大学の教授陣と学生たちは、米海兵隊の移転により島で暴行や強姦が急増する懸念を表明した。日本政府が米政府に軍の一部を沖縄から退去させ得た理由の一つには、米軍兵士による強姦に反発して起きた大きな住民運動があったからと彼らは考えている。

2008年、駐日米大使が沖縄に飛び、海兵隊員による14歳の少女の強姦について謝罪を表明しなくてはならなかった。沖縄駐留米軍は「反省」のため3日間外出禁止措置を取り、コンドリーサ・ライス国務長官が日本の首相に対して、「沖縄で起きた痛ましい出来事をめぐり…[被害者の]少女とご家族の安寧に心を痛めている」と「遺憾の意」を表さなければならなかった。

米海兵隊二等軍曹タイロン・ハドナット(38歳、海兵隊勤務歴18年)は、2008年2月10日、14歳の少女の強姦、児童に対する性的虐待、偽証、姦通および誘拐を行ったとして、2008年4月に訴追された。

2008年5月17日、ハドナットは性的虐待で有罪となったが、他の4つの容疑の訴追は取り下げられた。懲役4年の判決を受けたものの、刑期の4年目を猶予する司法取引により、服役は最長で3年となる。この他に二等兵への降格、米海兵隊からの不名誉除隊の処分を受けた。

ハドナットに対する強姦の告発は、10数年前に起きた非道な強姦の記憶を呼び覚まし、日本中に怒りを巻き起こした。福田首相は、ハドナットの行為は「許しがたい」と述べた。

海兵隊のグアム移転をめぐって、米議会には懸念が渦巻いている。下院軍事委員会委員長アイク・スケルトンは、グアム移転の規模、範囲、費用について懸念を表明した。「100億ドルを超す(40億ドルという当初の費用予測の2倍半)巨大プロジェクトであり、構想が未だ十分に熟していないのではないかと懸念している」と最近の議会公聴会でスケルトンは述べている。「移転は必要だが、しかるべきやり方で行わなくてはならない」

アジア太平洋地域の米軍「前方展開」戦略に反対するグアムの活動家たちは、米軍は太平洋の小島にではなく、人口も多くすでに大規模軍事基地もあって駐留を受け入れやすい米本土に大部隊を移転させるべきだと強く思っている。

しかし、米連邦政府が政府プロジェクトに地元の意向を考慮することはめったにない。とりわけ、米政府の権力の中心から遠く離れた地域での軍事プロジェクトについては。

グアムの活動家たちは、自分たちの声にきちんと耳が傾けられ、尊重されること、ただの植民地住民として扱われないことを求めている。

(アン・ライトは29年間米陸軍・陸軍予備軍に勤務し、大佐として退役した軍人であり、元外交官だったが、2003年3月、イラク戦争に反対して辞任した。勤務地は、ニカラグア、グレナダ、ソマリア、ウズベキスタン、キルギス、シエラレオネ、ミクロネシア、モンゴル。2001年12月、アフガニスタンのカブールで米大使館の再開にあたった、数少ない担当者の一人である。著書に『異議あり−戦争に黙っていてはいけない』(コードピンク大阪、2009年)がある。(www.voicesofconscience.com) )


原文: "Guam Resists Military Colonization: Having No Say
When Washington Tries to Increase your Population by 25%"
by Ann Wright
Published on Monday, August 17, 2009 by CommonDreams.org
URI: http://www.commondreams.org/view/2009/08/17-6