TUP BULLETIN

速報851号 米国の平和への新たな結集

投稿日 2010年4月27日
◎超党派の反軍国主義戦線の結成をめざして

前書

今年の2月に米国で大変ユニークな平和運動家の会合がもたれました。いや、平和運動家として活動してきたわけではない様々な色合いの有力者たちもが、軍国主義を終らせるために集まったのです。この背景について、主催者Voters for Peace(平和を目指す有権者たち)事務局長は1月のニュースレターでこう述べています。

「戦争に反対する立場の私達が、反戦の声がこんなに静かなのはなぜなのか、自分達にできることは何なのかと考えるべき時でもあります。...私は、平和運動はいまだ、2008年大統領選後の再出発の努力をしている最中だと見ています。多くの人々が、企業メディアの甘い言葉によってオバマが大統領になったら米国の軍国主義に歯どめをかけてくれると信じました」

これが今回紹介する会合に至った問題意識です。平和運動は米国社会運動の本流としてもっと大きく成長するべきだとの考えです。

2月の会合について書く前に、このVoters for Peaceと言う団体について、米国在住のJean Downey からの寄稿により紹介します。

<Voters for Peaceとは>
Voters for Peaceは、特に、イラクとアフガニスタンでの戦争を終らせ、将来の侵略戦争を阻止することをめざして、様々な米国平和団体の代表を結集しています。

米政府がイラクで始めた戦争が続いているという状況に対して、2006年3月17日(米国のイラク侵攻3周年)に、米国の平和活動家が連携してこの平和団体を立ち上げました。Voters for Peaceの使命は、米国の有権者に、戦争と軍国主義に関する議員の投票記録や官僚の立場などの情報を含め、「平和運動に役立つ有効なツールを提供する」ことによって、米国反戦運動にかかわる人々の力を強化することです。

オバマ大統領の当選に際して、Voters for Peaceは警鐘を鳴らしました。オバマ大統領はブッシュのイラク占領を拡大し、戦争をパキスタンにまで広げ、アフガニスタン戦争をエスカレートし、軍事予算を増大させることを計画していると。2010年2月に、ブッシュの軍国主義的世界制覇計画のオバマによる拡大に対抗するため、Voters for Peaceは、伝統的保守派、リバタリアン、リベラリスト、進歩主義者を合流させる、超党派の連合の形成に着手しました。アメリカよ、自分を取り戻そう。

Voters for Peaceの事務局長は、設立メンバーのひとりである、ケヴィン・ジース弁護士です。事務局メンバーは以下のとおりです。
ケヴィン・マーティン - Peace Action
ジェフリー・ミラード - 反戦イラク帰還兵の会(IVAW)
ティナ・リチャーズ - Grassroots America
シンディ・シーハン - 平和をめざす戦死兵遺族会 (Gold Star Families
for Peace)
デヴィッド・スワンソン - After Downing Street
アン・ライト - 平和をめざす退役軍人の会 (Veterans for Peace)
レノックス・イヤーウッド牧師 - Hip Hop Caucus

Voters for Peaceは上記の紹介文にあるとおり、政治的潮流を越えて平和をめざして結集するための、米国平和運動にとって注目すべき会合を開きました。関連のニュースレターを翻訳紹介します。

(前書き・翻訳 向井真澄)

Voters for Peace ニュースレター、2010年2月25日発行

発行者 Voters for Peace事務局長 ケヴィン・ジース
タイトル: 政治的立場を越えた平和のための結集
 
先週、Voters for Peaceは反戦運動の歴史の中でもユニークなイベントを主催しました。戦争、軍国主義、そしてアメリカ帝国に反対する人々が政治的立場の違いを越えて結集したのです。
 
この、40人ほどの会合の目的は、様々な問題について異なる意見をもちながらも軍国主義に対しては一致して反対しているすべての人々が、戦争を終結させるために力を合わせることができるのかどうかを見極めることでした。そのような生きて働く協力関係が可能であり、望ましいことでもあることを示す様々な兆候がありました。今私達は皆さんに発表する次のステップを検討しているところです。
 
ここで、このイベントの意味を感じとっていただけるように、出席者の経歴を一部紹介します。
 
米国保守国防同盟のロバート・A・タフト研究所研究員、ロナルド・レーガンの特別補佐官、New Left Journal(新左翼ジャーナル)創設者、「Encyclopedia of the American Left(米国左翼事典)」の著者、家族・宗教・社会のためのハワード・センター所長、Rolling Stone誌のための国家安全保障関係著述家、平和をめざす退役軍人の会会長、ブラック・アジェンダ・レポート編集者、The Nationの国事関係特派員、海軍大学院准教授、The American Conservatives(米国保守主義者)の編集長、ロン・ポールのキャンペーン・コーディネータ、Nader for President(ネーダーを大統領に)事務所報道担当者、ロバート・タフト上院議員の兵役関連立法補佐官、ゲリー・ハート上院議員の軍事顧問、ロックフォード研究所前会長、Progressive Review編集者、The Nation編集者、Reason編集局長、メアリーランド大学カレッジ・パーク校民主的社会をめざす学生連合のメンバー、Young Americans for Liberty(自由をめざす若いアメリカ人たち)のメンバー、Boston Area Physicians for Social Responsibility(社会的責任を果たすボストン地域医師会の会長)。
 
ご覧のとおり、多様な政治的立場を代表するメンバーの集合でした。一つ共通していたのは、米軍の膨脹とアメリカ帝国には反対するという立場です。共和党支持州出身か民主党支持州出身かにかかわりなく、連邦議会に送り込まれた議員は、自らを選出した選挙区には米国の軍国主義に反対する有権者が党派の違いを越えて存在することを知らねばなりません。現在の(イラクとアフガニスタンの)戦争およびきわめて膨大な軍事費を疑問視する保守主義者は、ほかにも仲間がいること、また、戦争に反対する保守主義には長い伝統があることを知るべきです。
 
アフガニスタンで命を落とした米兵は今週1,000名に達しました。今週に入って、3台のバスを標的にした米軍の爆撃でさらに30人近い民間人が殺されました。このようなまぎれもない現実が、米国の軍国主義がもたらす惨状を物語っています。武器と戦争の問題はあまりにも重大なので、私達はその他の違いを横に置いて、あらゆる政治的色合いのアメリカ人を巻き込む幅広い連合を形成しなければなりません。
 
私達は「アメリカ」を反映する反戦運動-アメリカの広範囲な政治的見解とあまねく広がっている戦争への反対を反映する運動-の創造を模索します。
現在、そのような見解は政治的議論から締め出されています。私達はそれを変えるつもりです。
以下をご参照ください。
http://votersforpeace.us/press/index.php?itemid=4048
 
私達の連合に関する記事が以下に掲載されています。
http://votersforpeace.us/press/index.php?itemid=4043
 
続報はVotersForPeace.USに掲載しますのでご注目ください。
皆さんがこの新しい方向についてどうお考えか、大きな関心を抱いています。どうかお知らせください。また、すぐさまカンパすることによって私達の取組みをサポートしてくださるようお願いいたします。カンパは次のサイトからできます。
 
ご支援ありがとうございます。
 
Voters for Peace
事務局長
ケヴィン・ジース
*****
 
<会合でのケヴィン・ジースの発言>
さらに米国反戦平和運動を振り返る意味で、上記会合でのケヴィン・ジースの発言の一部要旨を紹介します。(参照:上記 http://votersforpeace.us/press/index.php?itemid=4043)
 
ケヴィン・ジースが会議を始めるにあたって述べたように、テーマは「右寄り、左寄り、過激派中道派の意見、そして、議会、ホワイトハウス、主流メディアなどでの政治的対話では代表されることのない多くのアメリカ人の見解です。アメリカの歴史を通じて、二大政党間の限られた対話の外側で運動が発展した時代がいくつかありました。」
 
「世論調査は実際に、国民の多数派はしばしば戦争と戦争のエスカレーションに反対していることを示しています。しかしそのような見解を政府やメディアが代表することはありません。さらに、戦争への反対は左翼の人々に限られているわけでもありません。アメリカのすべての政治党派にわたっているし、いつもそうでした。伝統的な保守主義者の間にも戦争反対の長い歴史があります。彼らの哲学はワシントン大統領の最後の演説にまで遡ります。彼はその演説で、「外国との紛争」を避けることを強く求めました。この考え方は米国史のいたるところに見られます。反帝国主義者連盟は1890年代のフィリピンの植民地化に反対しました。史上最大の反戦運動団体、アメリカ第一(優先)委員会は第二次世界大戦に反対し、その構築過程でアメリカ中間層の保守主義を強力な基盤としていました。軍国主義に反対する最も強力な米国大統領の演説はアイゼンハワー大統領の1981年のホワイトハウスからの最後の演説で、成長過程にあった米国の産軍複合体について警告するものでした。近年は、軍国主義的ネオコン運動が米国保守主義の支配勢力となってきました。おそらく、莫大な軍事予算、軍国主義、アメリカ帝国に反対する伝統的保守主義者ほどこのことを強く非難する者はいないでしょう。」
 
「もちろん、左翼にも、南北戦争からフィリピンでの初期帝国主義、二つの世界大戦、ベトナム戦争、イラク戦争、アフガニスタン戦争に至るまで、長い反戦の歴史があります。ここには社会主義者、クエーカー教徒、社会正義を求めるカトリック教徒、進歩派の人々が含まれます。確かに、第一次世界大戦への参戦に反対する運動を主導したのは社会主義者、労働組合、平和主義者などで、組合指導者、ユージン・デッブズ大統領候補、ノーベル平和賞を受賞したジェーン・アダムズ、著作家であり政治活動家でもあったヘレン・ケラーなどが含まれます。
 
ベトナム戦争への反対は平和運動と公民権運動を結合し、マーチン・ルーサー・キング・ジュニア牧師の率直な反戦の言葉はその最も顕著なあらわれとなりました。
 
反戦平和運動を成功に導くために必要な要素は何でしょうか?
  • 反戦運動は左翼ばかりでなく、戦争に反対する米国中間層や伝統的な保守主義者をも代表するものでなくてはなりません。
  • 反戦平和運動が成功するには、愛国心の旗をあきらめることはできません。アメリカ人の愛国的衝動を捉えて、武力支配と覇権を拡大するのではなく、多くの人が思っているとおり、良い例を示すことで他を導き、危機にあって支援し、善を成す勢力となることができることを示す必要があります。
  • 反戦平和運動が成功するには、帰還兵が階級を問わず公然と参加し、体験を共有し、米国の軍国主義から学んだ教訓を説明する場となる必要があります。
  • よく組織された反戦運動には、軍や企業に手を伸ばすだけではなく、知識人や学生、聖職者、労働者、看護婦、医師、教員、その他大勢の人々にも手を差し伸べる委員会が必要です。
  • 1960年代の大行進や議会へのデモなどの戦術にはその役目がありましたが、それらは十分ではありません。メディアと政府はそれらに適応してしまっています。私達には有権者主導の活動や住民投票といったツールを使って道を開き、私達問題を有権者に提示する必要があります。そして、私達は世界各地の実効ある取組みから学ぶ必要があります。たとえばゼネストは、ニ、三時間でもニ、三日でも、政府の政策に対する一致した反対を示してきました。
  • 戦争のコストを地域社会、所得、預金残高などと不断にリンクさせることによって、戦争をアメリカ人の日常生活に関連づけましょう。人々は、帝国は米国の経済にとっていいことではないと知る必要があります。
  • 2つの政党は軍国主義賛成の議員に支配されています。反戦運動は軍隊の増強、戦争のエスカレーション、その他の軍国主義政策を求める候補を強力に批判する必要があります。」
 
原典
・ Voters for Peace ニュースレター、2010年2月25日発行
・ http://votersforpeace.us/press/index.php?itemid=4043