TUP BULLETIN

速報857号 米国のゲーツ国防長官、防衛予算に関して発言

投稿日 2010年8月1日
膨らむ防衛予算に防衛のトップが危機感を表明

アメリカの現国防長官ロバート・ゲーツ氏は、最近の演説において高額化する一方のアメリカの防衛予算に警鐘を鳴らしている。ここで紹介するのは5月3日のネイビーリーグ主催のエキスポでの演説。ネイビーリーグは、アメリカの海洋戦力を擁護し、アメリカの安全保障のために海洋戦力が果たす役割を人々に伝える活動を行っている。世界最強を誇るアメリカの軍隊。その軍隊を支えるのに、途方もない資金(アメリカ国民の税金)がつぎ込まれてきている。そんな余裕はもはやこの国にはない、と長官は訴える。
アメリカの軍隊が今後どのような展開を見せるのか、それに伴ってアメリカの軍産複合体がどのように展開していくのか。どちらも日本への影響は多大である。

凡例: [訳注] 訳注は文末にあります。
(前書き・訳:樋口淳子/TUP 軍事用語訳協力:山崎久隆/TUP)

2010年5月3日、メリーランド州ナショナル・ハーバーにあるゲイロード・コンベンション・センターで開かれた「ネイビーリーグ 海―空―宇宙エキスポ」でのロバート M.ゲーツ国防長官の演説

お話をする機会をいただいて、ありがとうございます。わが国の海洋戦力と国外での取り組みに対し、1世紀以上にわたり、確固とした、時には熱烈な支持を下さっているネイビーリーグの皆様に感謝します。
 
 今日、私はこの場に立ててうれしく思います。陸軍、空軍、海兵隊の軍関係団体に対して演説をしたことはありますが、ネイビーリーグの年会に参加するのは今回が初めてです。幸先のいいスタートを切るため、触れておくべきことがあります。国防総省はその歴史で初めて、米軍の2つの最高地位に、2期連続して海洋戦力の将校を置くことになりました- 海兵隊出身の統合参謀本部議長と海軍出身の副議長、続いて、海軍出身の統合参謀本部議長と海兵隊出身の副議長です。
想像するに、みなさんは、ようやくきちんとなった、と感じられているのではないでしょうか。
 
今年のエキスポのテーマは「グローバルな対応:海と陸での取り組み」。我々の軍隊が前例のないレベルで実践している世界各地での取り組み、特に海洋任務を考えれば、これ以上に適切なテーマは思いつきません。
 
その取り組み方は世界中で展開されているさまざまな活動に見ることができ、アルフレッド・セイヤー・マハン[1]もきっと気になって安らかに眠れず、草葉の陰から覗き見をしているに違いありません。アフリカ・パートナーシップ・ステーション[2]を通じてギニア湾で協力体制を構築し、東南アジアの最重要規定航路の安全を確保するために友好国や同盟国と共同訓練を行い、ジブチでは井戸を掘り、学校を建設し、アフリカの角周辺の海賊行為という脅威に対抗するための多国間活動を率い、貧民や貧窮した人々を助けるために病院船を急派し、メキシコ湾での原油流出などの危機では援助活動を行い、また、最近ではハイチ地震に見られるような自然災害への取り組みなど、わが軍人たちの深い思いやりと良識とを証明する活動です。
 
そして、もちろん、戦争です。米中央軍[3]作戦地域に約25隻の艦船と2万人を超える海軍軍人が配備され、まさに海軍は交戦中です。私は、イラクやアフガニスタンを訪問するたびに、地上に配備された多くの海軍軍人のことを考えさせられます。過去数年、真価を認められていない重要な物語の一つです。何万人もの海軍軍人が戦域に立ちました。地方再建部隊を指揮する将校、経理事務員、河川警備艇乗員、工兵、ネイビーシールズ(米海軍の特殊部隊)と衛生下士官、そして「デビル・ドクター」[4]たちです。彼らは作戦になくてはならない存在であり、地上部隊にのしかかる重圧を和らげるために貢献しています。しかも、確実に、不満を言うことなく任務を行っているのです。
 
それから、言うまでもなく、海兵隊の役割です。海兵隊が戦争に与えるインパクトは戦況を変化させる原動力になっています。まず、イラク戦争ではアンバール県。情勢を180度変える鍵になりました。現在は、アフガニスタン戦争の要となっている南部地方。3月、私は最前線に位置するナウザードという町で海兵隊員と会う機会がありました。強圧的なタリバンの支配のもと、4年近くの間、ゴーストタウンだった町です。そこへ海兵隊大隊が乗り込み、犠牲を払いながらの何ヶ月もの厳しい任務の結果、町は少しずつ生き返っています。他の地域にとって模範的作戦となっています。
 
海兵隊は事実上第2の陸軍地上部隊としてもう何年もの間活動してきています。
コンウェイ大将がかつて指摘したように、さまざまな戦闘遠征に参加して鍛えられた若い海兵隊員たちがいますが、彼らは艦船内での任務の経験はほとんどなく、海岸での上陸演習となると皆無です。しかし、海から遠く離れた陸上で彼らが行う重要な仕事は当面、なくてはならないでしょう。
 
今触れた仕事や任務の多くは、ほんの10年ほど前には考えられなかったでしょうが、我々の海洋戦力として今後継続するものです。ただ、この国が海軍、海兵隊、沿岸警備隊の制度をつくり、維持してきた理由を我々は常に心に留めておかなければなりません。「優れた海軍が費やした金は国をより安全にし、将来の戦争を防ぐだけでなく、同時に、外国との交易のためのきわめて重要な援助となる」と言ったのは、そうです、陸軍元帥のユリシーズ・グラント[5]です。事実、この国はかつて何年にもわたって洋上で威嚇され、脅威を受けたことで、通商航路を護ること、軍事力を誇示すること、仮想敵を抑止すること、そして必要ならば、洋上であるいは敵国の港湾や海岸で仮想敵を攻撃する能力を持たなければならないということを早い時期に学びました。これらの主要な能力や技術が、注意が行き届かなかったり無視されることで衰退してしまうことがあってはなりません。
 
そのことは、地上部隊がもっぱら中東や中央アジアでの軍事行動に専念する中、わが国の抑止的、戦略的軍事力の中心が空軍と海軍に移っている現状を考慮すれば、ますます重要です。そこで、これから数分間、わが国の海洋戦力が戦闘に励み、今後数十年間にこの国が必要とする能力に投資しようとする際に直面する課題に関し、次の3つの主な疑問に焦点をあてながら、展望を述べてみたいと思います。
 
◇ 最初に、海洋戦力を司る新世代の指揮官にどのような資質を期待するべきか?
◇ 2番目に、海軍―海兵隊チームはどのような新しい能力を持つことが必要となり、どの能力がおそらくは不要となるのか?
◇ 3番目に、対費用効果が高く、効率的で、かつ現実に対応する購入計画を確実に作成するには?
 
まず初めに、わが国が世界中で直面する安全保障に関する複雑な課題を踏まえれば、将来の海洋戦力はつまるところ、兵器の質よりも、むしろ指揮官の資質によって左右されることになるでしょう。1ヶ月前、私は海軍兵学校の将校候補生に、この国の海洋戦力で傑出する何人かを挙げながらこの点について話をしました[6]。次の指導者たちを挙げました:
◇ ビクター・クルラック中将(海兵隊)
先見の明を持ち、揚陸艇ヒギンズボートの開発に大きな影響を与えた。彼は後に、ベトナム戦争での対ゲリラ活動が人々に理解されるために力を尽くした。
◇ チェスター・ニミッツ海軍大将
若き将校時代に、第二次世界大戦およびその後何十年にもわたって非常に効果的に利用された空母の護衛のための輪形陣の開発に貢献した。
◇  ハイマン・リッコーバー海軍大将
非凡な創造的才能と忍耐力で、原子炉は大きすぎるうえ極めて危険であるため潜水艦に搭載することはできない、という通念を覆した。
そして最後に、
◇  ロイ・ボーム
第二次世界大戦が終結してから、後にネイビーシールズに発展した特殊コマンドを新しくつくり、率いた。ボームの遺産である組織は毎夜、アフガニスタンをはじめ、世界の各地でわが国にとって最も脅威となる敵を追跡している。
 
 私が将校候補生にこれらの指揮官たちのことについて話をしたかったのは、そして今日ここで触れているのは、指揮官たちが常に正しかったからではありません。また、すべてにおいて彼らがお手本とされなければならないから―穏やかに言ってですがーでもありません。彼らのような指揮官が人を動かしてしまうのは、彼らは、世界や技術が変化していることを認識する展望と洞察力を持っており、それらの変化が意味することを理解していた、そして、組織からのしばしば激しい抵抗にもかかわらず力強く前進したからです。  
 
戦争の歴史を通じて、こういった傑出した人物が具現する資質は重要であり、戦局を左右するものとなっています。しかし、技術が発展するスピード、そして非対称型戦法[7]を使った近代の軍隊から高度な武器を使用するテロリストのグループまで、機敏さと適応性を備えかつ破壊力を持つ敵が存在しうることを考慮すれば、私は敢えて、今世紀の最初の数十年にそのような資質が今まで以上に必要とされると強調します。米軍はきわめて多様な状況や争いに対処するため、可能な限りの融通性を備えていなければならず、わが国の将校たちはそんな軍隊を率いるのです。
 
第2に、成功のためには、海洋戦力はしかるべく組織され、しかるべく能力を備えていなければなりません。わが国の現有戦力を概観するに、展望を述べるところから始めるのがいいかと思います。というのは、軍隊の中でも海軍は、艦隊が保有する全艦船数によって判断される軍の規模の大きさに対し一貫して最大の関心を寄せていますから。
 
冷戦終結後、合衆国の戦闘艦隊の規模は縮小していますが、重要なのは、世界の他の海軍はそれ以上に縮小しているということです。つまり、相対的に言えば、米海軍はこれまでと変わらず強力です。
 
拡大する地球規模の任務と責任の数々-軍隊の存在を誇示することから人道的救援まですべてーに照らしてリスクと必要条件を判断するにあたり、現状況を確認しておきましょう。
◇ 米国は11隻の大型原子力空母を保有する。大きさと攻撃力において、1隻でも同レベルの艦船を保有する国は他にない。
◇ 米海軍は、ヘリや垂直離陸ジェット機用の海上基地の役割を果たせる10隻の強襲揚陸艦を保有する。米海軍以外でこのような強襲揚陸艦を保有するのはすべて、米国の同盟国あるいは友好国の海軍であるが、3隻より多く保有する海軍は無い。米海軍は、米国以外の国々が保有する合計の2倍の艦載機を海上輸送できる。
◇ 米国は57隻の攻撃及び巡航ミサイル搭載原潜を保有し、それもまた、他の国々が保有する数をすべて合わせた数よりも多い。
◇ 79隻のイージス艦は、およそ8000基の垂直ミサイル発射装置(ミサイル・セル)[8]を搭載する。全体のミサイル攻撃力では、米国はまず間違いなく、米国に続く世界最大の20カ国の海軍の合計より勝っている。
◇ ある最近の推定では、総艦隊能力としての米国戦闘艦隊の排水量は、総じて米国に続く少なくとも13カ国の海軍の総計を超えており、そのうちの11カ国は米国の同盟国あるいは友好国である。
◇ さらに、20万2千人の頑強な海兵隊員は、世界に存在する同種の軍隊の中で最大の軍事力であり、その規模は世界中のほとんどの陸軍に勝る。
 
わが国は公海の上空で、海上で、海中で凌駕するもののない立場を保っていますが、やはり、今後のための準備は必要です。これまでの時代が証明しているように、今までにない富、軍事力、野望を持ち、世界の舞台に新しく現れた勢力の中枢が戦略上の風景を変えつつあります。歴史から学ぶことがあるとすれば、これから数十年先の国の方針は予想も約束もできない、ということです。数十年というのは、次世代の艦船を開発し建造するのに必要な時間で、その工程は、レンガを一つひとつ積み上げ、窓を一つひとつ作り、何十年もかけられた中世の教会の建築にたとえられます。
 
わが国の海軍は新しい挑戦、新しい技術、そして新しい任務を念頭において編成されなければなりません。というのは、これも我々が苦い経験とともに歴史から学んだことですが、軍事力に関しては、適応性を欠くと生き残れないことがしばしばだからです。第二次世界大戦時、わが国とイギリスの海軍はどちらも、海軍航空部隊の能力が戦艦を時代遅れにしてしまう、その変化の速さに驚かされました。しかしながら、20年にわたる試験と試験航海を経た結果、どちらの海軍も航空母艦による作戦への移行に十分備えることができました。同じような海での革命が今、進行中かどうか、真剣に考えなければなりません。
 
仮想敵は、伝統的にわが国が圧倒的に優位であることをよく心得ています。そうだからこそ、本格的な海軍改革計画がいくつかの国で進行中であるにも関わらず、誰も、第一次世界大戦前の大建艦競争時代(ドレッドノートレース)のように、艦船建造競争でアメリカ合衆国に挑戦して自身を破産に追い込むようなことはしないのです。
 
それよりも、仮想敵はわが国の強みを制するための武器に投資しています。つまり、軍事基地、空海の資産、そしてそれらをつなぐネットワークというわが国の軍事力誇示のための主要な資産に対して威嚇する可能性を示しつつ、我々の自由な軍事行動を否定するものです。
 
わが国の戦闘艦隊の打撃範囲と攻撃力をくじくため、他国が非対称型戦法について検討していることは我々の知るところです。非正規戦闘では、2006年、非国家組織のヒズボッラーがイスラエル海軍に対し、対艦ミサイルを発射したことが挙げられます。また、イランは、中東地域で米海軍力に対抗し、弾道ミサイルと巡航ミサイル、対艦ミサイル、機雷を併用し、その地域に多数の高速艇を展開しています。
 
より高度な接近阻止システムにおいては、わが国は精密誘導兵器で事実上、他国の追随を許してきませんでしたが、とりわけ水平線を越えたところから攻撃可能の超水平線精密対艦巡航ミサイルと弾道ミサイルの出現により、その地位を脅かされています。これは、航空母艦やその他の数十億ドル(数千億円)もする大型の大洋水上戦艦にとって特に問題です。というのは、たとえば、フォード級空母に最新鋭の航空機がフル装備された場合、総額150億ドル(約1兆4千億円)から200億ドル(約1兆8千億円)の価値のある戦闘艦船が危険に晒されることになりかねないからです。また、数々のステルス原潜を含め、ますます洗練されつつある水中戦闘システムにもわが国は向き合うことになるでしょう。以上はすべて、西太平洋で60年近くわが国海軍が享受してきた聖域の終わりを告げかねません。
 
今後目指すべき方向性の一つとして、より画期的な戦術と共同取り組み方式があげられます。海軍と空軍が統合して空海戦闘に携わる構想は非常に有望な進展であり、それにより、わが国軍隊による抑止力のために、20世紀の終わりごろにエアランド・バトル(Air-Land Battle)[9]が成し遂げたのと同じことを21世紀の初めに成すことが可能かもしれません。
 
一方で、紛争に関わる活動の全容を見渡して奥深く攻撃する能力を持つシステムへと投資先を変更するために、何を、どのぐらい購入するのか、再検討することも必要です。たとえば、
◇ 長距離無人戦闘機や、情報収集、監視、偵察の能力向上のためにもっと力を注ぎ、海軍の戦闘、燃料補給、攻撃範囲を拡大
◇ 新しい、海からのミサイル防衛
◇ 敵の戦闘ネットワーク内奥深くで、より多くの任務を行えるよう潜水艦の役割を拡大
などが挙げられるということになります。潜水艦の攻撃力を増強し、より小型の潜水艦や無人水中軍事拠点を検討することも必要でしょう。
 
このような変化は、海軍が、低強度の紛争領域に属する任務―新しい海軍作戦構想に反映されているように、無くなることのない必須項目ですがーをより多く遂行するように要求される場合でも起こっています。どんな任務でも、それが武装抵抗勢力に対抗する任務であろうと、海賊行為対策あるいは治安支援であろうと、新しい任務を行うのには、どのような武器一式を購入するかについて新しい見地から考えることが要求されます。具体的に、海軍には数とスピード、浅い水域で行動できる能力が必要となります。というのは、特に21世紀の戦争の性質として、戦闘を遂行するのに、ネットワークのつながりをますます駆使し、より小型でより拡散力のある武器と部隊が必要となるからです。我々が去年学んだように、AK-47ライフルやRPG(携行式ロケット砲)を振り回す若造連中の海賊を追いかけ、1撃を加えるのに、10億ドル(約9百億円)もする誘導ミサイル駆逐艦は必ずしも必要ではありません。
 
それに対し海軍は、より特殊な戦闘能力、小型沿岸巡視艇、河川警備小艦隊、高速輸送双胴船への投資という回答を出しました。昨年の予算では、開発上の問題があるとは言え、用途が広く、大量生産が可能で、海軍の外洋水上艦にとっては深度が十分でないかあるいは入れても危険すぎるような場所に進航できる沿岸戦闘艦の購入が進められました。沿岸戦闘艦購入という新しい取り組みとメーカー間の競争で、わが国が必要とする数の艦船を建造するために、まかなえる費用の範囲で、大規模に実現でき、継続できる方策が見つかるはずです。
 
再均衡を取るためのここ2-3年の努力により、現在進行中の戦争等のいわゆる通常ではない状況において資源と組織的な支援が必要とされる方向に向いた一方で、核を使わないハイテク能力の優先度があまりにも下がってしまった、と言う意見があります。ただ、実際には、今会計年度、国防総省は、購入と研究開発の総費用として、過去10年間のほぼ90%増し、1,900億ドル(約18兆円)近くを要求しました。武装抵抗勢力に対抗する作戦、治安支援、人道的活動、またその他のいわゆる過激ではない任務のための装備にあてられるのは、この1,900億ドルのせいぜい10%です。私は最近の2回の予算編成において、目に見える規模の、必要とされる変更を指示しました。もっとも、さきほど私が説明したわが国の海軍がはるかに勝っていることを考えると、それはとても劇的と言えるものではありません。
 
これらの論点は、明白に規定された必要条件と現在の装備状況 ー艦船であろうと、航空機、あるいは何か他のものであろうと- との間の、いわゆる、「相違(ギャップ)」についての論争を常に引き起こします。そして行き着く先は、往々にして、すでにあるものを追加すること、あるいは既存の能力の更新という解決策です。この方法では、限られた力しかなく、そうであるから型にはまらない画期的な方法で米国を攻撃するしかないというさまざまな敵に我々が直面している事実を無視することになります。より現実に即して言えば、恐れるべきは、我々が追求している能力が、現実に明日の世界で必要とされる能力に一致しないということです。
 
そう考えると、戦略的環境の展開にともない、国防総省は常に将来計画を調整し続けなければならないことになります。2点の大事なことが思い起こされます。
 
1点目は、戦闘中に多数の兵士を艦船から上陸させるのに、どんな新型装備が必要かーつまり、遠征戦闘車(次世代水陸両用強襲戦闘車両)が提供できる能力のことです。第一次湾岸戦争(1991年)[10]において、海兵隊の小艦隊をクウェート市沖で待機させ、そのため、サダムの陸軍がサウジアラビアとの国境を見張りながらもう一方で沿岸を監視せざるを得なかったのは、疑いもなく、ほんとうの戦略的強みでした。しかしながら、対艦システムが進歩してますます岸から離れたところに発射地点をおくことができる今日において、大規模な上陸作戦に再度着手することが必要なのか、あるいは道理にかなっているのか、十分に考えてみなければなりません。もっと基本に近いところで、この21世紀に現実的に最もありそうなシナリオに対処するのに、いったいどのような水陸両用性能が必要なのでしょうか?そしてどれほどの規模で?
 
2点目は、航空母艦。国防総省の計画では、2040年までに11の空母打撃群を保有することになっており、すでに予算に計上されています。確かに、世界の海に我々の軍事力を誇示する必要性が無くなることは決してありません。けれども、わが国がすでに他を引き離して圧倒的に優勢であることを考えてみてください。また、敵が持つ対艦能力が向上していることも考えてみてください。2つ以上の空母打撃群を保有する国が他に無い状況で、今後30年間に11の空母打撃群を持つことが、ほんとうに必要でしょうか?今後の計画はすべて、これらの現実を踏まえてのものでなくてはなりません。
 
それに関連して、3点目そして最後の課題としてあるのが予算です。私はかつて、わが国には大きな戦争が起これば軍備を縮小する傾向がある、と警告したことがありました。それは今でも懸案のままです。しかしながら、これまでもそうでしたが、防衛予算の長期予想は、国家の戦略的能力もさることながら、国の全体財政の健全性に本質的に関係します。
 
その点において、我々はいくつかの厳しい現実を受け止めなければなりません。米国の納税者と議会は、当然、赤字を心配します。しかるに、納税者が支払った税金の管理人としての国防総省の仕事には改善されなければならない点が数多くあります。
 
さて、問題のその部分は国防総省の手の届かないところにあることは、私を含め誰でも知っていますし、その状態がもう長く続いています。私が気に入っている話の一つに、初代アメリカ合衆国陸軍長官であったヘンリー・ノックスの話があります。彼は米国艦隊の創設を任せられました。そして、米国議会から必要な支援を受けるために、とうとう、6つの州の6箇所の造船所で6種類のフリゲート艦を建造してしまいました。世の中には決して変わらないことがあるものです。
 
今期の予算案提出で国防総省は、十分な調査のもと、軍の同意を得て、統合打撃戦闘機(F35戦闘機)の追加エンジン用の予算を取りやめることとC-17輸送機の生産中止を求めました。こうして話している間も、エンジン追加とC-17増産を議会が予算に復活させないように論争が交わされています。納税者が今後数年にわたって負担することになりかねない何十億ドル(何千億円)もの不必要な費用です。政治的意図と防衛予算をめぐる論争については、この土曜日、アイゼンハワー図書館でさらに詳しく話したいと思います。[11]
 
そうだからと言って、国防総省と軍が購入の責任を果たさないでいいというわけではありません。当初の見積もりを大幅に超えて急騰している高額の物品では、これらの論点は特に深刻になります。現役の潜水艦と揚陸艦は、1980年代の同種のものと比べ、3倍の価格です。しかもそれは、艦船の建造と改造のための総予算が以前と比べると20%削減されている現況においてです。ほんの数年前、議会予算局は海軍の造船計画に対応するには、年間200億ドル(約1兆8千億円)以上の費用が必要だと見積もりました。それは、近年(10年ほど前)[12]の造船予算の2倍であり、30%ほどの財源不足でした。急上昇するこれらのコストと引き換えに国力が比例して強化されているのだろうかと疑問に思うのはもっともなことです。
 
海軍のDDG-1000(ミサイル駆逐艦)のケースがまさにそうです。海軍幹部がその計画を縮小したときには、艦船1隻の価格は倍以上になっており、購入予定艦船数は32隻から7隻までに減りました。現在の購入計画数は3隻です。
 
あるいは、次期新型弾道ミサイル潜水艦を考えてみてください。国防総省は、1隻70億ドル(約6千3百億円)の潜水艦を12隻購入する計画のため、今後数年の研究開発費として60億ドル(約5千4百億円)の支出をまさに今、提案しています。潜水艦に対する現在の必要条件は、戦略型原潜の規模と搭載能力を持ち、攻撃潜水艦のステルス性を備えていることです。今年に入って行われた議会公聴会で私は、2010年代後半から新型弾道ミサイル潜水艦だけで、海軍の造船財源の大部分を使い果たしていくことになるだろうと指摘しました。
 
なるほど、最新の30年造船計画は正しい方向への第一歩です。メイバス海軍長官とラフヘッド海軍大将は、妥当な予算を作り上げ、作戦への影響を抑えて混乱を来たすことなく軍を再編成するのにたいへんな努力をしました。同時に、海軍が革新的なエネルギー安全保障と確固とした主導権を持つことは、環境保護に寄与するだけでなく、長期的な節約にもつながります。
 
そうではあっても、戦争が収束するに従い、その過酷な局面で耐えてきた陸軍と海兵隊を再編成するための財源が必要になるということを忘れてはなりません。また、兵士とその家族に対して長期にわたって支払い続けなければならない費用があります。言い換えれば、造船予算は最重要事項とは言え、今想定している額から著しく増額されることは考えにくいということです。駆逐艦に30億から60億ドル(約2千7百億円から5千4百億円)、潜水艦に70億ドル(約6千3百億円)、空母に110億ドル(約9千9百億円)を必要とする海軍の費用をこの国がほんとうにまかなうことができるのか、最後にはそう問わねばなりません。
 
本日、たくさんの点について取り上げましたが、私自身がそれらに対してすべて回答できるなどとは言いません。ただ、私の言うことを覚えておいてください、海軍も海兵隊も、発展する技術、新たな脅威、現実的な予算に照らして、今まで前提としていたことを進んで再検討し疑問を投げかける用意がなくてはならないということを。わが国には、減少する一方の装備に高額化する技術がつぎ込まれていく ― 結果、最大財政支出の一部が、浪費に終わってしまうかもしれない兵器や艦船に費やされてしまいかねないー という現状を継続する余裕など、ほんとうにないのです。
 
最後にひとつ思うところを。わが国が保有する艦船の種類と数、また、我々がどのようにそれらを使うかは、この200年あまりの間ずっとそうであったように、常に変化していきます。変わってはいけないこと、不朽であるべきことは、これらの艦船上や陸上で任務につく海軍軍人、海兵隊員の資質です。彼らは、身体的勇気とともにモラルを備えていなければなりません。誠実さを備えていなければなりません。建設的に、大胆に思考しなければなりません。彼らは、世界や技術は絶えず変化していることを認識し、それゆえ海軍と海兵隊は時代とともに変わらねばならないことを理解して、将来を見通す洞察力を持っていなければなりません。常に柔軟であり、常に適応できることが求められます。彼らの名だたる先人たちがそうしたように、彼らは上官に対してでも、厭わずにきびしい現実を話さなければなりません。
 
激烈な2つの戦争が続く中、私は過去3年半にわたり、艦船上で、イラクとアフガニスタンの戦地で、海軍基地と海兵隊駐屯地で、そして海軍兵学校で、未来の海軍と海兵隊を見てきました。これらの若者たちは、わが国の海洋戦力の未来はたいへん明るく、彼らに任せておけばこの国は安全であるという確信を私に与えてくれています。
ご静聴、ありがとうございました。
 
原文
2010年7月31日付米国国防総省ウェブサイト
http://www.defense.gov/speeches/speech.aspx?speechid=1460
原題
Navy League Sea-Air-Space Exposition
Remarks as Delivered by Secretary of Defense Robert M. Gates, Gaylord
Convention Center, National Harbor, Maryland, Monday, May 03, 2010
 
[訳注] 
[1] Alfred Thayer Mahan 「アルフレッド・セイヤー・マハン」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%95%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%89%E3%83%BB%E3%82%BB%E3%82%A4%E3%83%A4%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%83%8F%E3%83%B3
米海軍の理論家・軍人。海軍少将で退役した。
 
[2] アフリカ・パートナーシップ・ステーション 
従来はソマリアのような交通の要衝以外はほとんど関心を持たなかった米国の、アフリカ戦略の一環として新設された。ポスト冷戦型戦略の一環で「多国間相互協力拠点」として機能させる目的。この場合のパートナーシップとは、西アフリカを中心に米国と軍事協力関係を強化しようとする意味で、このような展開は米国の西アフリカにおける資源・エネルギー確保や対テロ戦争遂行、あるいは対中国戦略との指摘もある。
 
[3] 米中央軍(CENTCOM)
米軍の地域統合軍の一つ。他に太平洋軍、欧州軍などがある。1983年に作られたが、米国の戦略が中東などにあまり関心がなかった時代は活動性は低かった。湾岸戦争以後に米国による中東地域への軍事行動が増大し、大きな戦力を投じられるようになった。司令部はフロリダ州のマクディール空軍基地にある。現在の司令官マティス海兵隊大将は2010年7月から就任しているが、5年前に「(タリバンを)殺戮するのは気分が良い」などと発言し批判された。二度にわたるファッルージャ攻撃の司令官でもあった。
 
[4] devil docs [デビル・ドクター]
http://www.time.com/time/world/article/0,8599,438873,00.html
2003年5月30日付け タイム(雑誌)
前方蘇生外科室と呼ばれ、戦場で医療活動を行う医師団のニックネーム
 
[5] ユリシーズ・グラント
南北戦争時の北軍総司令官で、第18代米国大統領
 
[6] 2010年4月7日に行われたゲーツ長官の海軍士官学校での演説を指す。
 
[7] 非対称型戦争(戦闘)
双方の戦力や戦闘能力に大きな差があるような場合における戦略、戦術において、相手とは異なる予測困難な手段をとることにより局面を有利に運ぼうとすることを指す。
必ずしも「正規軍対ゲリラ戦」とは限らない。たとえばイラン対米軍におけるペルシャ湾での作戦行動、またはタリバン対多国籍連合軍(ISAF)など。特に装備や戦力で大きな差がある場合に優勢な相手に対して弱点や予測不可能な戦術等により対抗する場合に、このように呼ばれる。戦場での軍事行動に限らず、広義には社会不安を引き起こすようなテロ攻撃等も含む。
 
[8] ミサイル発射装置(ミサイル・セル)
垂直ミサイル発射システムに使用される個別のミサイル発射装置を「ミサイル・セル」という。ミサイルを甲板下に格納し発射する筒を指す。細胞を意味する「セル」に由来。2発から数発を連続的に撃つことが可能。
 
[9]エアランド・バトル 空地戦闘
米軍が湾岸戦争で使用した戦術で、空と陸から戦力を投入して相手の最前線から後方支援部隊や補給基地、司令部までを一気に制圧することを目指す。湾岸戦争では実際に100時間で主要な戦闘を終わらせている。戦車部隊に対しては、ヘリや攻撃機による航空攻撃が有効とされてきたが、夜間や悪天候時には期待できない。しかし地上戦闘部隊では相手の火力を圧倒できないなど双方の短所を補い合い、戦場を面で制圧するために考案されたが、大規模な戦力を動員する必要があるため長い準備期間とコストが掛かる。もともとはイスラエル軍がアラブ連合軍の優勢な機甲部隊に対抗するために考案し第四次中東戦争で使用した戦術を参考にしている。
 
[10]  第一次湾岸戦争(1991年)
1990年8月2日にイラクがクウェートに侵攻した「湾岸危機」に対して国連安保理が1991年1月15日までに撤退を要求したが従わなかったため、1月17日から2月27日までの間に行われた米国が主力の多国籍軍による戦闘を指す。大半は航空攻撃により行われ、地上戦は100時間余で終了した。これに対しての「第二次湾岸戦争」は2003年に始まったイラク・フセイン政権打倒を目指す米英国軍主導のイラク攻撃を指す。
 
[11] 「アイゼンハワー図書館でさらに詳しく話したい」
2010年5月8日、連合国の第二次世界大戦勝利の65周年にゲーツ長官がアイゼンハワー図書館で演説を行った。
 
[12] 近年(10年ほど前)
(Potential Costs of Navy’s 2006 Shipbuilding Plan)
http://www.cbo.gov/ftpdocs/71xx/doc7105/03-30-Navy_ShipBuilding.pdf
(抜粋)
According to the Navy’s estimates, funding for new construction alone would average $13.4 billion per year between 2007 and 2011, compared with an annual average of $10.2 billion between 2000 and 2005.
抜粋の訳:海軍の見積もりによれば、(艦船の)新建造のみに必要な経費の年平均は、2007年から2011年は134億ドル。それが2000年から2005年では102億ドルであった。

修正情報
修正日時:2010年8月5日
修正箇所:訳注
誤)
[10]  第一次湾岸戦争(1991年)
1990年8月2日にイラクがクウェートに侵攻した「湾岸危機」に対して国連安保理が1991年1月15日までに撤退を要求したが従わなかったため、1月17日から2月27日までの100日余にわたり行われた米国が主力の多国籍軍による戦闘を指す。これに対しての「第二次湾岸戦争」は2003年に始まったイラク・フセイン政権打倒を目指す米英国軍主導のイラク攻撃を指す。
正)
[10]  第一次湾岸戦争(1991年)
1990年8月2日にイラクがクウェートに侵攻した「湾岸危機」に対して国連安保理が1991年1月15日までに撤退を要求したが従わなかったため、1月17日から2月27日までの間に行われた米国が主力の多国籍軍による戦闘を指す。大半は航空攻撃により行われ、地上戦は100時間余で終了した。これに対しての「第二次湾岸戦争」は2003年に始まったイラク・フセイン政権打倒を目指す米英国軍主導のイラク攻撃を指す。