TUP BULLETIN

速報867号 ハイチ、拡大するコレラ被害に国連軍の出国要請

投稿日 2010年12月20日

天災につづく人災、コレラ感染被害に苦しむ市民の怒り




12月6日、ハイチ保健省の発表によるとコレラの犠牲者は2000人を超え、感染 者は92000人近くにのぼり、いっこうに感染の拡大が収まる気配がみえません。

大地震以後、多くの国からの援助にもかかわらず首都のポルトープランスには いまだ130万人がテント暮らしを余儀なくされています。いったい何故この地の 衛生管理がここまで機能しないのか。なぜ基幹設備がいつまでも整わないのか。 これは「貧しい国」だから仕方のないことなのでしょうか?

現地を基軸に活動する著者が英国ガーディアン紙に発表した記事を紹介します。

前書きと翻訳:金克美(KIM Keukmi)/TUP

困窮するハイチの人々が国連軍を追い出したい理由

ハイチの危機は数十年の経済的搾取とヒモ付き援助の結果――市民の怒りは当然

イザボー・ドゥセ 英国ガーディアン紙 2010年11月18日

今や国家非常事態となったコレラ流行を食い止める努力が、ハリケーンに よって妨げられた後、ハイチでここ数日起きている市民暴動について耳に しているかもしれない。こういったすべては、酷くけなされがちなこの国 のイメージ、つまり圧倒的な貧困、蔓延する汚職、そして、暴力の脅威が 絶え間ないためハイチ人が互いを引きちぎらないようにするには国際平和 維持軍が必要なのだといったイメージにぴったりくるかもしれない。

そう、貧困と汚職は本当のことかもしれない。しかし、この木曜日には、 ミヌスタ[*1]として知られる国連軍の出国を求めるデモンストレーション[*2] が、学生、草の根組織、選挙からしめだされた反対派、そして最も重要な こととして、ハイチで拡大する悪夢をただちに終わらせるという共通の理 由で団結した市民によって、ハイチの首都ポルトープランス全域で行われ ようとしている。

[*1]MINUSTAH:国連ハイチ安定化ミッション。フランス語で Mission des Nations Unies pour la stabilisation en Haitiの頭字語。
[*2]デモのビデオ http://www.youtube.com/watch?v=wqqlFA1BaMo&feature=player_embedded

公共投資があまりに欠如しているために衛生基幹設備といえばゴミと人 間の排泄物でいっぱいにあふれた開放型下水道しかない、たくさんの地 域では、コレラの大流行で死亡者が急上昇し1000人を超えてから、住民 の間に恐怖が根をおろしている。

地震の前にこの国に流れ込んだ数十億ドルという国際援助にもかかわら ず、こういった地域は、ハイチのどの都市や町でも見ることができる。 10カ月経ち、さらなる数十億ドルが加わった後にも状況はずっと悪化し、 沈黙の中で耐えてきた市民も、選挙をわずか二週間後に控え、もうたく さんだということになったのだろう。

「防水シートの下で生活している間は、選挙を拒否する」などのシュプ レヒコールは「国連平和維持部隊とコレラは兄弟」に置き換わっている。 違いは、いまや各地でシュプレヒコールは、炎上した車、炎を上げたタ イヤ、ガラスの破片に伴なわれ、コレラの犠牲者の棺が通行を妨げ、 援助関係者は作業の中断を余儀なくされ、人々が路上で死ぬにまかされ ているということである。

国連軍ネパール部隊がコレラに感染した糞便をアルティボニト川に投棄 したと多くの人が非難し、いまやすべての国連軍の出国を要求する声が 高まっている。当局は抗議について、選挙日程を混乱させる政治的な試 みであると主張し、コレラ災害にもかかわらず選挙を断行しようとして いる。投票が最終的に延期される場合、もし最終的にそうなった場合、 国際的なメディアは、ハイチ人は民主主義には向かない、いまだにデュ バリエ独裁から逃れられない、または民意を組織し表明するにはあまり にも深く無政府状態に侵されている、と片付けるに違いない。

これはお馴染みのパターンだ。1980年代にエイズがはじめて世界の注目 を集めたとき、ハイチ人は4つのH[*3]、すなわちHomosexuals(同性愛 者)、Hemophiliacs(血友病)、Heroin users(ヘロイン使用者)そし てHaitian(ハイチ人)の一つとして、米国に病気を持ち込むものと烙印 を押されたものだった。だがコレラと同じで、エイズはハイチに固有の ものではないし、誰かが持ち込んだおかげで現在被害がでているだけだ。 ハイチ人がまたもや近隣諸国から烙印を押されているが、非難は世界が 受けなければならない。

[*3]4Hについてさらに詳しい記事(英文)は After the Quake: HIV/AIDS in Haiti (地震の後/ハイチのHIV/AIDS[仮訳])

本当の問題は、なぜ?ということだ。なぜ、壊滅的に貧困なのか? なぜ、水が、衛生や医療の基幹設備がないのか?

10年前、欠陥のある水道設備のために資金が用意されていた。2000年に、 米州開発銀行(IDB)から 5400万ドル(3400万ポンド)[当時の1ドルを103円 とすると、約55兆円]によって、都市部と農村部両方の水道設備を修復する ための資金がハイチ政府に融資されるはずだったのに、それは、民主的に 選出されたアリスティド政権を動揺させる米国外交政策の目的に都合の悪 いものだった。情報筋(*原注)が示唆するところでは、米政府は、水道設備 投資に加えて健康、教育、衛生基幹設備への投資もあわせて合計で1億4600万 ドルにのぼる IDBの融資について、選挙の諍いが続く間の凍結を求めた、 とされている。しかも、選挙問題が解決した後も援助は引続き凍結された ままだった。2002年の英国のある研究によれば、ハイチの水事情は世界で も最悪と評価されている。

(*原注) Who removed Aristide? (アリスティドを引きずり下ろしたのは誰だ?[仮訳])

ミヌスタの便所に独立機関の調査を入れるべきである。とはいえ、同様の ことはどこで起こってもおかしくなかった。ハイチへの国際的な政策は数 十年も変化がないのでコレラが蔓延する条件は満たされていた。経済的搾 取、政治的介入、NGOのひも付き援助、メディアの偽伝、同じ過ちが何度も 何度も行われている。残念なことに、大地震もこれらを変えるにはいたら なかったようだ。加熱する抗議行動でハイチの人々が怒りを表しているこ とは驚くにはあたらない。

(c) Isabeau Doucet/Guardian News & Media Ltd 2010

イザボー・ドゥセは、ハイチのポルトープランスに拠点を置くジャーナリ ストです。彼女は、ハイチリベルテ、CSモニターでキャンプと復興プロセ スの状況について書いており、アルジャジーラのプロデュースをしていま す。ロンドン大学ゴールドスミスの人類学の大学院生です。

◎ガーディアン紙の厚意により、翻訳配布許可を取得しています。

Article printed from guardian.co.uk
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2010/nov/18/haiti-crisis-un-troops

原文: Published on Thursday, November 18, 2010 by The Guardian/UK Why Desperate Haitians Want to Kick Out UN Troops The crisis in Haiti follows decades of economic exploitation and gifts with chains attached – no wonder its citizens are angry
by Isabeau Doucet
www.CommonDreams.org
URL to article: http://www.commondreams.org/view/2010/11/18-12