TUP BULLETIN

速報891号 イーモン・マッキャン 「英国と米国によるエジプト独裁政権糾弾の偽善」

投稿日 2011年2月23日

◎ 中近東諸国が揺れる今、英米政策をふりかえる

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エジプトの人々が開いた新しいページに、これからどんな物語が描かれていくのか。2月12日付ニューヨークタイムズ紙ではコラムニストのニコラス・クリストフが「米国は、チュニジアやエジプトにおいて後手に回っていたばかりか、中東全体において何十年も[理解と対応が]立ち遅れてきた」と述べている。ムバーラク政権に巨額の助成金を出してきた米国だが、民主主義の旗手を自認するなら中東の民主主義を名実共に支援してほしい。


無論、他国の政権に関わる動きについては、内政干渉と反発されるリスクを考え(イスラーム圏など西欧と異なる文化圏については、相手国の価値観を尊重する慎重さが特に要求される)、長期的視野に立った、時には微妙な外交が必要だろう。けれども人権という重要な点において「欧米=二枚舌あるいは日和見主義」などというイメージが増大するようでは、人権擁護という理想の土台が骨抜きになるばかりか、地球規模での経済や政治的バランスを模索する上での切り札に効力がなくなる。国際外交は微妙なステップの絡み合う複雑なダンスなのかもしれないが、踊り手は姿勢に一つ筋を通しておかないと、ダンスにならない。


エジプトの新しい朝を、またイスラーム圏に押し寄せる新しい波の行方を希望をこめて見守るとともに、欧米の(また日本の)対応が相手国の、そしてそこに生きる人々の、「いま」に根ざしたブレのないものとなることを望む。「望み」を少しでも現実に近づけるためにわたしたち一市民にできるのは、いま起こっていることに目をこらすことだけでなく、「これまで」起こってきたことを知り、覚えておくことでもある。「昨日」があるからこそ「今日」があり、「明日」があるのだから。


邦訳・前書 渡辺/TUP

2011年1月31日月曜日2:17PM投稿:2011年1月31日月曜日2:36PM更新

社会主義労働者党(英国)のウェブサイトより

エジプト市民蜂起以前の英米両国政府の発言をお忘れなく
――イーモン・マッキャンの提言

バラック・オバマ米国大統領は[1月28日]金曜日にこう語った。「世界の誰もが持つ普遍的な権利を、エジプトの人々も持っているのです。それは、平和的な集会と結社の権利、言論の自由、そして自らの運命を決められることを含みます。すなわち人権です。米国はいかなる場所においても、これらの権利を支持します」

過去50年間で、米国政権がエジプトにおける民主主義運動に賛同したのは、これがはじめてのことだ。

昨年11月10日、ワシントンでの記者会見で、ヒラリー・クリントン国務長官はエジプトの独裁者ホスニー・ムバーラクの外務大臣、アフメド・アブルゲイトの隣に立ちこう語った。「外務大臣以下、使節団の皆様をワシントンに再びお迎えできて光栄に思います。外務大臣と私は緊密かつ生産的な協力関係を築いてきました。このように協議できる機会を私はいつも心待ちにしています。

合衆国とエジプトの協力関係は中東および周辺地域の安定と安全の礎石であり、我々は様々な問題に関し、地域的および世界規模のリーダーシップをエジプトに期待しています。両国の関係は、互いへの敬意と共通の利益、協調の歴史、そして共に分かち合う未来への展望に根ざしているのです」

クリントンの国務長官就任からひと月足らずの2009年2月[註1]、国務省はエジプトにおける人権に関し、以下の報告を行った。「政府は政権交代に関する市民の権利を制限しており、1967年以降ほぼずっと非常事態を継続させている。

[註1:原文では「2月」となっているが、国務省ホームページ記載の報告書は3月11日付になっている。2009HumanRightsReport:Egypt
http://www.state.gov/g/drl/rls/hrrpt/2009/nea/136067.htm

治安部隊は不当に破壊的武器を用い、囚人や被収容者を拷問にかけ、虐待し、多くの場合、責任を問われることすらない……治安部隊は、時には政治的目的のために恣意的に人々を逮捕および拘禁し、公判前に長期勾留していた。行政機関は司法に制限を加え、圧力をかけていた。政府は過去一年間、報道や結社、宗教の自由をますます軽視するようになり、また政府はその他の市民的自由、とりわけ言論の自由に対しても制限を続けていた」

エジプトの人々が街頭に出る前に、米国政府が何らかの対応を行った記録は皆無である。

先週末、ウィリアム・ヘイグ外務大臣は、英国も常にエジプトにおける「より大きな自由と民主主義、より開かれた柔軟な政治体系と表現の自由を支持して」きたと語った。

英米両国は「30年に亘る戒厳令と抑圧」を援助してきた、と国際原子力機関のエジプト人元事務局長ムハンマド・アル=バラーダイー(エルバラダイ)がその後主張したことに対し、意見を求められたデヴィッド・キャメロンの答えは「そんなことはなかったと思う」という、きっぱりした否認したとは程遠いものだった。

ムバーラク独裁政権の29年間で、英国政府がエジプトにおける人権擁護の立場を表明した記録は皆無である。

そのうえ、オバマ支持者は驚くかもしれないが、なぜか「普遍的な」人権は、まだサウジアラビアにさえ適用されているようには思えない。エジプトに関する報告の翌月、国務省はサウド一族の封建支配下における人権状況評価を公表した。「失踪。拷問や身体的虐待。刑務所や留置場の劣悪な状況。独断的な逮捕や外界との連絡を禁じた抑留。司法制度における公判の否認や適正手続きの欠如。政治犯。(インターネットを含む)言論、集会、結社、移動など市民的自由の制限や、信仰の自由への厳しい制限。汚職、政府における透明度の欠如。女性への暴力、児童の権利侵害、性差や宗教、宗派、民族性に基づく偏見も頻繁に見られた」

それから10ヶ月後、2010年1月、ワシントンポスト紙の報道によれば、合衆国政府高官がドバイで次のような発言を行った。「オバマ政権はサウジアラビアやその他ペルシア湾の同盟国と、粛々と協力作業を進めている」。同紙は、「軍用機や対ミサイルシステムを友好的アラブ諸国に売却する、というジョージ・W・ブッシュ政権の約束を推し進める努力」に触れ、「特にサウジアラビアとアラブ首長国連邦などの湾岸諸国は、数十億ドルかけて米国産の防衛システムの購入を進めている」と報じた。

サウジの首都リヤドの英国大使館ウェブサイトには、英国からの訪問客向けに同国の紹介記事が掲載されている。「サウジアラビアと英国は長年緊密な友好関係を保っており、英国とサウジ王国との関係は益々幅広く、また深いものになっている…[中略]…英国とサウジの王族同士も親密な関係を保っており、両国の関係の深さを示している。両王国の相互貿易も成長を続けている」

サウジ独裁政権との関係を英国法よりも優先させようとする英国政府の姿勢は、2006年12月、トニー・ブレア[元首相]が重大不正捜査局の捜査を中断させるべく介入したことに現れている。捜査の対象となっていたのは、大手国防企業BAEシステムズが、腐敗したサウジ王族に贈っていた数億ポンドもの賄賂で、支配者[サウド]一族との420億ポンドに上るアル・ヤマーナ[註2]兵器売買契約を進めるためのものだった。

米国と英国が突然エジプトでの人権保護に目覚めたきっかけは、怒りの声と人々が行進する足音、それ以外の何ものでもなかったのである。

[註2:アル・ヤマーマal-yamamahの誤りと思われる。アル=ヤマーマ取引(al-yamama)1985年に英国とサウジアラビアの間で合意された、英国最大の武器輸出計画。20年間にわたり総額420億ポンド(当時で約10兆円)におよぶ取引で戦闘機などの軍用機120機など大量の武器を輸出した。これにからみ英重大不正捜査局が英国兵器会社BAEシステムズからサウジ王家のスルターン・ビン・アブドゥルアジーズ皇太子に10億ポンド(2400億円)もの裏金がコンサルタント料との名目で支払われていたことに対して調査を行なっていた。なお、アル=ヤマーマとはリヤドにある国王の宮殿の名前。(参考 2007年06月07日AFPニュースなど)]

(C)ソーシャリスト・ワーカー
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原文:
Eamonn McCann: Britain and the US’s hypocritical condemnations of the Egyptian dictatorship
http://www.socialistworker.org.uk/art.php?id=23733
posted: 2.17pm Mon 31 Jan 2011 | updated: 2.36pm Mon 31 Jan 2011