TUP BULLETIN

速報896号 ジョン・ピルジャー: アサンジへの不当な攻撃

投稿日 2011年3月11日

◎司法の歪曲、加担するメディア、その裏に潜むもの

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ウィキリークスをめぐる「情報と民主主義」のテーマはリアルタイムで世界を揺るがしている。


アサンジのスウェーデン送還をめぐる下級裁判所での審問は予定通り2月頭に開かれ、送還に支障なしとの判断がくだされた。これに対しアサンジ側は高裁に再審を訴え出た。各国でウィキリークス本の出版が相次いでいる。


一方、1月25日にエジプトで大規模な抵抗運動が始まり、18日後にムバラク大統領が退陣。これと並行して、またこの直後から中東各国で若者を中心とする体制への抵抗運動が広がり、進行中。運動の成果のあった(、しかしまだ抵抗運動継続中の)国はエジプト以前のチュニジアをはじめ、バーレーン、 イエメン、ヨルダンなど。リビアは限りなく内戦に近い状態にあり、ほかにもイラク、サウジ、アルジェリア、イラン、オマーン、シリア、モロッコ等で抵抗運動が起きている。この間、ウィキリークスはこれらの国に関する公電を発表し続け、現在までに26カ国の報道組織50社ほど(新聞雑誌)が ウィキリークスの公電を報道している。


ジュリアン・アサンジの盟友ジョン・ピルジャーがこの原稿を発表(1月21日)してからたった1カ月ほどのあいだに、上記のように多くのことが起きた。同郷の人として、またジャーナリズムの歴史の当事者として、ピルジャーはアサンジの傍らに立つ。


(前書き:宮前ゆかり、藤澤みどり、翻訳:服部健、宮前ゆかり、藤谷英男、荒井雅子)

[  ]:訳者による補足

ウィキリークス、「ハイテク・テロとの戦い」に挑戦する
ジョン・ピルジャー
ザ・ニューステイツマン 2011年1月21日

ウィキリークスとその創設者ジュリアン・アサンジへの攻撃は、政治とジャーナリズムの旧来の体制秩序を脅かす情報革命に対する、旧勢力側の反応のひとつだ。米国の公人による公然たる殺人の扇動も、法律を改悪してアサンジを生涯地獄のような監獄に送りこもうとするオバマ政権の企ても、未曾有の正体暴露に見舞われた強欲な組織の反応である。

ここ数週間、米国司法省はワシントンD.C.からポトマック川の対岸にあるバージニア州東部地区に極秘の大陪審を設立した。その目的は、第一次世界大戦中に平和活動家逮捕に使った、問題のスパイ防止法、または米国の司法を堕落させた「テロとの戦い」共謀罪法の一つに基づいて、アサンジを起訴することだ。

司法専門家はその陪審を「意図的な計略」とし、バージニアのこの一角が国防総省、CIA、国土安全保障省および米国権力を支えるその他の重要機関の職員や家族の住む地域であることを指摘している。先週アサンジに会ったとき、彼は「これはよくない知らせだ」と暗く気がかりな口調で言った。「わるい日々もある。でもまた立ち直る」と言う。

昨年、ロンドンでアサンジと会ったとき、私はこう言った。「君はとてつもない相手を敵に回している。その筆頭が、二つの戦争を遂行している最強の政府だ。その危険に君はどうやって対処するのか?」

アサンジの返事は彼独特の分析的なものだった。「恐怖がないわけではない。でも勇気というのは恐怖を知的に克服することだ――どんな危険があるか、それをどう切り抜けていくかを理解することによってね」

自身の自由と安全への脅威にも関わらず、アサンジは、ウィキリークスの主な「技術上の敵」は米国ではないと言う。

「中国が最悪の敵対者だ。中国は、国内すべての読者と国外すべての情報源のあいだに立ちはだかる攻撃的で精巧な遮断技術を持っている。我々は確実な情報伝達を可能にするためにずっと戦い続けてきており、現在、中国の読者が我々のサイトにアクセスできるあらゆる方法がある」。ウィキリークスが2006年に設立されたのは、まさにこの精神によってであるが、それには道義的な側面があった。「目標は正義であり、手段は透明性である」と、アサンジはホームページに書いた。

現在メディアが口を揃えて唱えていることとは裏腹に、ウィキリークスの文書は「ぶちまけられて」いる訳でない。251,000点の米国大使館公電文書のうち公開されたのは1パーセント以下だ。アサンジが指摘するように、無実の個人を傷つけるかもしれない文書の解読と編集作業には、高度な情報と一次情報源に見合った基準が必要である。秘密主義の権力にとって、これはジャーナリズムの最も危険な形態なのだ。

2008年3月18日、「サイバー対敵情報活動評価部門」によって作成された国防総省の機密文書の中に、ウィキリークスに対する戦いが予告されていた。それには、米国諜報機関がウィキリークスの「引力の中心」である「信頼」感を破壊することを狙っている、と書かれていた。諜報機関は「摘発と刑事訴追」の威嚇によってこれを行うことを計画していた。独立ジャーナリズムのこの稀有な情報提供者を黙らせ、犯罪者に仕立て上げることが目的であり、中傷攻撃がその手段だった。貶められた帝国主義マフィアの怨念ほど恐ろしいものはない。

意図的であるにせよないにせよ、最近アサンジ追跡の脇役を演じた人々もいた。彼らの行動は卑怯、卑劣というべきであり、それ故に、我々が知る権利をもつ事柄を勇気をもって明らかにした一人の男に対する不正義をかえって際立たせることになった。

米国司法省は、アサンジを追跡するために世界中の人々のツイッターや電子メールのアカウントの詳細、銀行やクレジットカードの記録を要求するなど、まるで我々皆が米国の従属者であるかのように扱い、一方、欧米の「自由」なメディアの多くは追跡されている者の方に怒りをぶつけている。

「アサンジ氏に問う、なぜ今スウェーデンに戻らないのか?」。12月19日付『オブザーバー』紙でキャサリン・ベネットのコラムの見出しはこう詰問し、昨年8月ストックホルムで二人の女性に性的暴行を行ったとする容疑に対するアサンジの対応に疑問を呈した。ベネットは「真実を語る時期を遅らせ続けることは、果敢な暴露と完全な開放性を掲げるこの英雄にとって」「とても不誠実で不整合に見えてくるのではないか」と書いた。ベネットが浴びせた言葉には、勅選弁護士ジェフリー・ロバートソンが1月11日の引き渡し公聴会で説明したアサンジの基本的人権と身の安全に迫る脅威に対する考慮が一言もなかった。

ベネットへの反論として、スウェーデンにあるオンライン版ノルディック・ニュース・ネットワークの編集者アール・ブルケは、『オブザーバー』紙に寄稿して、「キャサリン・ベネットの偏向的な質問への妥当な答え」は非常に重要であり、だれでも知ることができると説いた。アサンジはレイプ容疑をかけられた後5週間以上スウェーデンに留まっており、その後、容疑はストックホルムの検察局長によって破棄された。

アサンジとスウェーデン人弁護士は、ある政治家の介入を受けて事案を再開した二人目の検察官に何度も会おうとしたにもかかわらず、かなわなかった。しかし、ブルケが指摘するように、この検察官はアサンジにロンドンへの渡航許可を与えていたのであり、アサンジはロンドンでも「(そのような場合の通常の対応として)インタビューを受けることを申し出た」のである。だからこそ、この検察官がその後欧州共通逮捕状を出したのは奇妙に思われるのだ。『オブザーバー』紙はブルケの投書を掲載しなかった。

この事実関係の整理が決定的な重要性を持つのは、それがスウェーデン当局の背信的な行動を示すものだからである。これら一連の奇怪な出来事については、ストックホルムにいる他のジャーナリストやアサンジのスウェーデンの弁護士ビヨーン・フッティグも確認している。それだけではない。ブルケは、アサンジが仮にスウェーデンに身柄を引き渡された場合に直面する不測の危険を挙げている。

「アサンジが英国に移ってからウィキリークスによって公表された文書は、スウェーデンが市民の権利に関して一貫して米国からの圧力に屈してきたことを明確に示している。もし、アサンジがスウェーデン当局によって拘束されることになれば、アサンジは法的権利にしかるべき配慮をされることなく米国に引き渡される恐れが十分ある」とブルケは書いた。

これらの文書は英国では実質的に無視されている。文書を見れば、スウェーデンの体制エリート層が一世代前には認められた中立性からかけ離れ、スウェーデンの軍事・諜報組織がNATO(北大西洋条約機構)を中心とする米国の枠組みにほぼ吸収されていることは明らかである。

2007年の公電で在ストックホルム米大使館は、フレーデリック・ラインフェルト首相の右翼政党が主導権を握るスウェーデン政府を、「(反米の)伝統に縛られない新たな政治世代」と賞賛した。公電はまた、スウェーデンの外交政策が現外務大臣カール・ビルトによっていかに大きく支配されているかを明らかにした。ビルトの経歴は、ベトナム戦争当時からの米国への忠誠に基づいている。当時、米国が民間人の標的を爆撃していたという証拠を放送したスウェーデン公共テレビ局を攻撃したのだ。ビルトはまた、ジョージ・W・ブッシュ政権、CIA、それに共和党最右翼と密接な関係を持ったロビー団体、イラク解放委員会で主導的な役割を担った。

ブルケは最近の調査でこう述べている。「アサンジの事件に関してこうしたすべてが重要性をもっているのは、予想される米国の引き渡し要求を承認するかどうかについて、公式にというよりはおそらく、正式の法的手続きを装ってこっそりと決定を下すのが、カール・ビルトとラインフェルト政府の他のメンバーと思われるからだ。彼らの過去のどの行動からしても、引き渡し要求が承認されることは明らかである」

例えば、「テロとの戦い」が行われていた2001年12月、スウェーデン政府は突然2人のエジプト人、アフメド・アギーザとムハンマド・エル=ジーリーの政治難民の法的身分を取り消した。彼らはストックホルム空港でCIAの拉致班に渡され、エジプトに「委ねられ」、拷問された。スウェーデンの司法オンブズマンが調査し、二人の人権が「深刻なまでに侵害され」ていたことを発見したときには、手遅れだった。

このことがアサンジの件について意味するところは明確である。二人の男性は法手続きなしに、彼らの弁護士が欧州人権裁判所に訴える前に、そしてスウェーデンに貿易制裁を課すという米国の脅しに応じて、移送された。

昨年、アサンジはスウェーデンでの居住を申請し、そこにウィキリークスの拠点を置くことを望んでいた。申請を認めればどうなるか、米国政府は情報機関同士のやりとりを通じてスウェーデン政府に警告したと一般に考えられている。12月、アサンジ事案を再開した検察官マリアン・ニーは自身のウェブサイト上で、米国への身柄引き渡しの可能性に言及していた。

性行為容疑が初めて公にされてからほぼ6カ月経っても、ジュリアン・アサンジは何の罪でも起訴されていないが、彼の推定無罪の権利は故意に否定されてきた。スウェーデンで展開している出来事は、よく言っても茶番にすぎない。10月にアサンジの代理人を務めたオーストラリアの弁護士ジェームズ・カトリンは、スウェーデンの司法制度は「笑いもの[……]前代未聞だ。連中は法的措置をとりながら都合よくでっち上げている」と述べた。

カトリンによれば、アサンジは、この件での矛盾に言及している以外は容疑を申し立てた女性を公の場では批判していない。中傷する資料を、英国でいえば『サン』紙にあたるスウェーデンのタブロイド『エクスプレッセン』紙に漏洩して世界中のメディアによる裁判を開始したのは警察なのだ。

英国では、このメディア裁判は、BBCを筆頭にさらに熱心な検察官を呼び込んでいる。

12月のカースティ・ウォークの番組『ニューズナイト』裁判所では推定無罪は存在しなかった。「なぜ女性に謝らないのですか?」、さらに「逃げないとここで誓いますか?」とウォークはアサンジに詰問した。

キャサリン・ベネットのパートナーでBBCラジオ4の『トゥデイ』のジョン・ハンフリーズは、「法律に従って」スウェーデンに戻る義務があるとアサンジに言いわたした。もっとも威丈高なハンフリーズには、もっと重大な関心事があった。「あなたは性犯罪者ですか?」と彼は尋ねた。アサンジがそんな連想は馬鹿げていると答えると、ハンフリーズはアサンジが何人の女性と寝たことがあるのか知りたいと詰め寄った。

「あのフォックスニュースでさえ、そこまで堕ちただろうか?」と、米国の歴史家ウィリアム・ブルムは自問し、こう言った。「アサンジが私のようにブルックリン育ちだったらよかったのに。そんな質問には『あなたの母親も含めてということですか?』と言ってやればいいことくらい、ちゃんとわかっていただろうに」

これらの「インタビュー」で最も際立っていることは、彼らの傲慢さや知的・道徳的謙虚さの欠如もさることながら、何よりも、正義と自由の根本問題に対する彼らの冷淡さ、そしてアサンジに対して偏狭で卑猥な言葉を当然のように使っていることだ。こうした線引きを定着させることで、既存メディアは、功績において自分たちと鮮やかな対照をなすアサンジとウィキリークスの、ジャーナリズムとしての信頼性を削ぐことができる。現体制の守護神、固陋な既成勢力が新勢力の台頭を阻もうとあがいているのを見ているようだ。

このメディアでの裁判は、明らかにアサンジにとって悲劇的な面があるが、一方最も優れた主流ジャーナリズムにとっても同様である。『ガーディアン』紙はウィキリークスの暴露に関して、一流メディアらしく優れた記事を数多く発行し、世界中から喝采されたが、12月17日に至って包囲攻撃を受けている情報提供者に噛みつくことで、自らの体制派特権体質を復活させた。同紙の幹部記者ニック・デイビスは主要記事で、「新たな」、「真相を明かす」猥褻ネタを含む「完全な」スウェーデン警察の資料を与えられたと断言した。

アサンジの弁護士ビヨーン・フッティグは、デイビスに与えられた資料には重要な証拠が欠けていると言う。欠けているものの一つは「被害者女性二人が再度インタビューされ、話の内容を変える機会を与えられた事実」であり、また二人の間で交わされた、大きな意味をもつツイートとSMSメッセージも欠けているのだが、こうした証拠は「この件において公正な司法判断を下す上で決定的に重要」なものである。「ジュリアン・アサンジに強姦の容疑はない」という当初の検察官エーヴァ・フィンネの発言のような、無罪を明らかにする決定的証拠もまた、省かれている。

デイビスの記事を検討したアサンジの元弁護士ジェームズ・カトリンは、「法の適正手続きの完全な欠如が問題であるのに、デイビスはそれを無視している。なぜ適正手続きが大事なのか?それは、司法と行政という両政府機関の凄まじい力が個人に重くのしかかり、その自由と信望が危ぶまれているからだ」と書いてきた。アサンジの命も危ぶまれている、と付け加えておこう。

『ガーディアン』紙は多くの面でウィキリークスの暴露から莫大な利益を得た。一方、ウィキリークスの方は、米国の陰険な圧力によって、多くの銀行やクレジットカード会社を経由した資金を受け取ることができなくなり、ほとんど小口の寄付によってしのいでいるが、同紙からは何も受け取っていない。

2月にランダムハウスは、ドル箱ベストセラー間違いなしの『ガーディアン』紙の本を出版する予定だ。アマゾンが『機密の終焉――ウィキリークスの興隆と衰退』と題して宣伝している。『ガーディアン』紙幹部でその本の担当者のデービッド・リーに「衰退」とは何を意味しているのかと尋ねたところ、彼はアマゾンが誤っている、仮題はウィキリークスの興隆(と衰退?)となっていた、と答えてきた。

リーは、「括弧と疑問符に注目してくれ、いずれにせよ、出版時のタイトルにするつもりはなかった」と書いてきた。(その本は現在『ガーディアン』紙のウェブサイトで『ウィキリークス――ジュリアン・アサンジの機密戦争の内幕[邦題『ウィキリークス――アサンジの戦争』]と題されている。)しかし、そのようにしかるべく書かれたところで、その意味は、「本当の」ジャーナリストがまた支配するようになったというだけだ。新米の若造には気の毒だが、本当はジャーナリストなどでは一度もなかったのだ、というわけである。

1月11日、アサンジの最初の身柄引き渡し公聴会がベルマーシュ治安判事裁判所で開かれた。ここは、管理令が適用されるようになるまでは、英国のグアンタナモ収容所というべきベルマーシュ刑務所に人々が引き渡されていた悪名高い場所だ。当局によると、普通のウエストミンスター治安判事裁判所からベルマーシュに変更されたのは、報道設備がないという理由だという。変更は偶然にも、ジョー・バイデン米国副大統領が「アサンジはハイテク・テロリスト」だと宣言したのと同じ日に発表されたが、それが伝える意味は偶然ではなかった。

アサンジは、自分だけでなく、内部告発者とされるブラッドレー・マニングの身に何が起こるかについても心配している。マニングは、「米国刑務所の安全と虐待に関する委員会」が[2006年の報告書で] 「拷問」と呼んだ状態で、独房に拘留されている。23歳のマニングは、すべての兵士が「道徳的選択」の権利を持つとするニュルンベルク原則に忠実な、世界第一の良心の囚人だ。彼の苦痛は自由の国の理念を欺くものである。

2008年の大統領選でバラク・オバマは、「政府の内部告発者は健全な民主主義の一部であり、報復から守られなければならない」と言った。オバマはそれ以後、米国史上どの大統領より多くの内部告発者を追跡し、起訴してきた。

「ブラッドレー・マニングを屈服させることが最初のステップだ」と、アサンジは言う。「目的は明らかに、彼をくじけさせ、何かの形で私と共謀したという自白を強要することだ。実際には、私は報道で公表されるまで彼の名前を聞いたことは一度もなかった」

「ウィキリークスの技術は当初から、資料を提出してくる人たちの身元や名前が決してウィキリークスにわからないように設計されたものだった。我々を追跡することも検閲することも不可能だ。それが、情報提供者に守られていることを保証できる唯一の方法なのだ」

さらにアサンジは言う。「主流メディアの中で浮上してきているのは、もし、私が起訴されることがあるなら、他のジャーナリストも起訴されるかもしれないという意識だと思う。『ニューヨークタイムズ』紙でさえ心配している。これは過去にはなかったことだ。以前は、内部告発者が起訴されても、出版者や記者は米国憲法修正第一条によって守られており、ジャーナリストはそれを当然と考えてきた。今それが損なわれている」

「このことは、民間人殺害の証拠を含むイラクとアフガニスタンでの戦争記録の公開で引き起こされたのではない。政府が秘密裏に言っていたこと、公然とついていた嘘、戦争を始めた訳の真相が暴露され、体制エリート層が色を失ったことが原因だ。これらのことを世間に知られたくないのでスケープゴートを見つける必要があるのだ」。ウィキリークスの「衰退」を仄めかされていることについてはどうか。アサンジは言う。「衰退はない。我々が今ほどの文書を公開したことはかつてなかった。ウィキリークスは現在、2000以上のウェブサイトでミラーサイト化されている」

「独自でウィキリークスをやっている派生サイトは数えきれない。もし自分の身に、あるいはウィキリークスに何かが起これば、これらの「保険」の資料が公開されることになっている。こうした資料は、メディアを含め、権力にさらに同様の真実を突きつけるものだ。ある報道機関については504の米国大使館公電がある。(ルパート・)マードックとニューズ・コーポレーションについての公電もある」

ウィキリークスが引き起こしたとする「損害」に関する最新のプロパガンダは、「漏洩された外交公電で身元を明らかにされた何百人もの人権活動家、外国政府の要人、ビジネスマンたちが身の安全を脅かされる恐れがある」との米国国務省の警告だ。これは1月18日に『ニューヨークタイムズ』紙が律義に引き継いで伝えた内容だが、でたらめだ。議会への書簡で、国防長官のロバート・ゲイツは、これまでに危うくなった機密の情報源はないと認めている。カーブルのNATO当局は、警護を必要としている人物は一人もみつからなかったとCNNに語った。

偉大な劇作家アーサー・ミラーはこう書いている。「国家が……これほど多くの無辜の民を罰しているとの思いに耐えられない。だから罪の証拠は内部で否認される必要がある」

ウィキリークスが我々に与えてくれたものは、真実である。それには、戦争と偽って我々の名の下に行われている恐怖政治の中で、如何に、何故、かくも多くの無辜の民が苦しんでいるのか、そして米国がいかに他国の民主政府に対して乱暴な干渉をしてきたのかに関する、稀に見る貴重な洞察が含まれている。

スペインでウィキリークスのログを公表した『エルパイス』紙の編集者ハビエル・モレノは、次のように書いている。「ウィキリークスの文書が世界中の関心に火をつけたのは何よりも、西洋の政治家がどれほど市民に嘘をついていたかをウィキリークスが徹底的に明らかにしているという単純な事実によるのだと思う」。

大国ならいかに弱腰であっても、ジュリアン・アサンジやブラッドレー・マニングのような個人を潰すのは難しくない。ここで重要なことは、我々がそれを許してはならないということ、つまり、事実を曲げずに伝える義務がある我々はいかなる場合にも権力に手を貸してはならないということだ。トーマス・ジェファーソンの言葉を借りれば、透明性と情報は民主主義的自由の「通貨」である。ある著名な米国憲法法律家は私にこう語った。「すべての報道機関は、ジュリアン・アサンジが自分たちの一員であること、そしてアサンジの起訴はジャーナリズムに甚大な、戦慄の影響をもたらすということを認識すべきである」

私の気に入りの機密文書は、もちろんウィキリークスが漏洩したものであるが、ロンドンの国防省からのものだ。それは、恐れや利害にとらわれず公共に奉仕するジャーナリストのことを「破壊的」で「脅威」だと言っている。それこそ名誉の勲章である。

 

ジョン・ピルジャーはオーストラリアのシドニーで生まれ、教育を受けた。戦争特派員、映画制作者、そして劇作家。ロンドンを拠点に、多数の国から執筆活動を行い、ベトナムとカンボジア戦争に関する作品で英国ジャーナリズムの最高賞である「ジャーナリスト・オブ・ザ・イヤー」を二度受賞している。ピルジャーの新しい映画作品、『みえない戦争』は、johnpilger.comでDVDで入手可能。

原文
WikiLeaks Defies the “War on Hi-Tech Terror”
by John Pilger
Published on Friday, January 21, 2011 by The New Statesman
http://www.commondreams.org/view/2011/01/21-9