TUP BULLETIN

速報912号 医者を弾圧するバーレーン政府

投稿日 2011年5月21日

ジュネーブ条約違反のバーレーン政府を放置する米政府の二枚舌

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(米ボルダー在住パンタ笛吹さんの訳稿です/TUP)



今年の2月半ば、私はシリアを旅行した。首都ダマスカスのホテルに宿泊したちょうどその夜、エジプトではムバラク大統領が退陣し、大騒ぎするタハリール広場の様子をホテルのテレビで見た。



翌日、「アラブの春」の影響でダマスカス市内でもデモがあるかと思ったが、スーク(市場)や大広場はまったく平常どおりだった。



ヨルダンとの国境の街ダルアーにも行った。街中にアサド大統領の肖像が掲げられていて、統治は安定しているように見えた。そのすぐ後にダルアーが反政府デモの起爆になるとは予想もしなかった。人権団体によると、シリアのデモですでに450人が治安部隊の発砲などにより死亡しているという。



シリアに比べて、民主化運動が弾圧され尽くし、メディアもあまり取り上げなくなった国がある。ペルシャ湾に面する小国バーレーンだ。千人ものサウ

ジアラビア軍とハリーファ王制の治安部隊は、デモ参加者を次々に逮捕し、軍事法廷で死刑判決を言い渡している。



リビアでは反体制派を援護するため爆撃まで行っている米国は、バーレーンではサウジ軍の派遣にも目をつむっている。バーレーンに米軍第五艦隊の司令部があるからだろうが、アメリカの二枚舌政策のせいで、バーレーンは早くも「アラブの冬」を迎えている。



中東タイムズ紙の記者で、医学博士でもあるセザール・シェララのレポートはは、バーレーンの現状を切実に訴えている。



翻訳・前書き:パンタ笛吹



医者を弾圧するバーレーン政府

著者:セザール・シェララ

2011年4月23日(土) コモンドリーム

バーレーン政府は、政府治安部隊により攻撃され負傷した民主化活動家を治療しているということを理由に、医者や医療従事者に圧力をかけている。

シリア政府によるデモ弾圧に対してかなり明確に批判をしている米国は、バーレーンでの人権侵害に対する立場も今はっきりさせるべきだ。

ハマド国王(ハマド・ビン・イーサアール・ハリーファ)が率いるバーレーン政権は、2月15日に拡大した民主化デモを鎮圧し始めて以来、今日に至るまで弾圧の手を緩めていない。

4月中旬の時点ですでに400人が逮捕されている。27人の政敵と民主化活動家が死亡し、数十人の行方が分からないままだ。

3月16日、政府は非常事態を施行した。サウジアラビア軍やアラブ首長国連邦軍に援護された治安部隊は、王国の首都マナマの真珠広場に集まったデモ隊を排除した。

政府軍はまた、バーレーン最大の公立病院であるサルマニヤ総合病院を占拠した。政府によると、病院やクリニックは、国を不安定におとしいれよとするシーア派過激派の巣窟だということだ。その結果、多くの病人が行き場を失ってしまった。

医師や医療従事者に対する弾圧は、おそらく、負傷したデモ参加者の治療をしないように、医者たちに恐怖を植え付けることが目的なのだろう。

しかしながら多くの医師たちは、どんな場合でも患者を救うという「ヒポクラテスの誓い」を思い起こし、どうにかデモ負傷者の治療を続けている。多くの場合、負傷者を救急車で運ぶと警官に止められるので、自分たちの自家用車で患者を病院や近くのクリニックに運んでいる。

バーレーン政府による医師への脅迫と弾圧という軍事行動は、「紛争で負傷した人びとには医療行為を保障しなければならない」と規定するジュネーブ条約に違反する。

英インデペンデント紙が得た、サルマニア病院の外科医と英国の医師たちとの間にかわされた電子メールを読むと、どれだけひどい虐待が行われているのかが分かる。

バーレーンの医師は英国の医師にこう書き送った。

「病院では大量虐殺と同じくらい重傷の負傷者たちが押し寄せていて、今日は長い一日でした。状況はまだまだ安定しておらず、これ以上の死者が出ないよう願うばかりです。」

バーレーン政府は、医師や医療従事者を攻撃の対象にしている訳ではない、とくり返し発表している。しかし、私服警官が検問所で医療従事者たちをいちいち足止めし、医者が負傷した活動家を治療していないかどうか検閲している、と改革派は主張する。

それに加えてバーレーン政府は、負傷した市民を治療するためにクェートから派遣された医師団の入国を断ったとして非難されている。

「最近は、治安部隊が病院を襲い、入り口を閉鎖して医療記録を改ざんし、患者に暴行をふるい医者たちを逮捕しています。これは医療界に対する横暴が深刻なまでにエスカレートしていることを表しています」と、バーレーンの状況を綿密に監視してきた国際人権NGOヒューマン・ライツ・ォッチは述べている。

しかし政府の弾圧は、医者だけを対象にしているだけではない。ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、ヒューマン・ライツ・ウォッチ中東諮問委員会の委員であり、バーレーン人権監視委員会の代表であるナビール・ラジャブ氏の自宅に、何者かが催涙弾を投げ込んだという。

催涙弾の刻印を見ると、トリプル・チェイサーCS515催涙弾とあり、ペンシルべニア州ソルツバーグにある連邦研究所製だと特定された。ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、唯一、バーレーンの治安部隊のみがこのタイプの手榴弾を入手できるという。

「私はこの20年間に、20カ国以上の人権侵害調査を行ってきましたが、バーレーンほど医療の中立性に対して、広範かつ体系的な違反を犯している国を見たことがありません」と、「人権のための医師団」副局長のリチャード・ソロムは英インデペンデント紙に記している。

バーレーン政府と緊密な関係を保っている米国は、これらの人権侵害に終止符を打つ手助けをする権利と責任がある。

原文:
http://www.commondreams.org/view/2011/04/23-3
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2011042801000162.html
http://www.asahi.com/international/update/0428/TKY201104280619.html
http://www.hrw.org/ja/news/2011/04/18-3