TUP BULLETIN

速報931号 過去最悪の軍事委託事業の浪費事例ワースト・テン 《シリーズ「マラライ・ジョヤとアフガニスタンの今」第5回》

投稿日 2011年10月26日

 ◎シリーズ「マラライ・ジョヤとアフガニスタンの今」第5回

過去最悪の軍事委託事業の浪費事例ワースト・テン

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シリーズ前書き(岡 真理/TUP)はTUP速報第926号にあります。

 https://www.tup-bulletin.org/modules/contents/index.php?content_id=958

アフガニスタンは現在、ソマリアに次いで世界第二の腐敗した国とされています。それは、いかなる公的資金をも本来の使途に向かわせず、誰かの私腹を肥やすようにと機能するシステムが形成されていることを意味します。しかも、その結果は財政的腐敗にとどまりません。資金が流れこむ闇の先には、米国の軍・企業関係者ばかりか、アフガニスタン国内で民を苦しめ続けている軍閥やターリバーンも含まれるからです。「テロ」との戦いから発生する資金の流れがテロをこととする勢力を養っているのです。この記事が「浪費事例」として挙げているすべての事象の背後に、占領下アフガニスタンの民、貧しい国々の民、そして米国納税者の苦しみを感じ取ることができます。この記事はマラライ・ジョヤが講演の中で鋭く指摘していることの米国側からの裏づけでもあります

日本も、2009年からの5年間で50億ドルという「民生支援」をアフガニスタン政府に対して行っています(「民生支援」の名の下で、実は反米・反政府行動に立ち上がる市民を標的とする警察官の訓練に使われていると西谷文明さんは今年2月の現地取材に基づき報告しています)。この記事から、その一部は闇のチャンネルに流れ、残りが警官の給与などに使われ、いずれにせよアフガニスタンの民をむしろ苦しめているであろうことが推察できます。



第5回前書き・訳 向井真澄/TUP

 過去最悪の軍事委託事業の浪費事例 ワースト・テン
アダム・ウェインスティーン
2011年9月2日金曜日、Mother Jones

超党派の戦時契約委員会(注・実情調査委員会)が発足してから3年が経過したが、その業務が今週完了した。議会に提出された最終報告書では、連邦政府はアフガニスタン戦争とイラク戦争が始まって以降、請負業者の着服と浪費により310~600億ドル(最大約4兆6千億円)の損失を被ったと推定されている。「政府は2001年にアフガニスタン戦争を開始したときも2003年にイラク戦争を開始したときも、戦争の遂行に多数の請負業者を使う用意はできていなかったし、現在も委託事業に対する出費の効果的な管理・監督を行うことはできていない」と同委員会マイケル・チボー共同委員長は述べている。
官僚的なタイトル(「付随契約事業の看過が膨大な浪費、詐欺、流用につながる」)が控えめに思われるぐらい、248ページに及ぶ同委員会報告中もっとも興味深い節には、かの有名な600ドルの国防総省のトイレの便座などは安いものだと思わせるほどの、高額の大規模浪費が列挙されている。同報告書が詳述する軍事委託事業ワースト・テンを、無茶苦茶さの程度の低いものから順に紹介する。

10位. 軍閥のための福利厚生:国防総省が、受入れ国トラック輸送プログラムの一環として供給物資を輸送するためにアフガニスタンの大型トラック運転手を雇用したとき、同省は輸送業者の身の安全を確保する配慮を忘れた。そこで輸送業者は地元のよからぬ勢力を雇って保護してもらうために請負代金の20%もの金額を費やした。「軍閥会社」というタイトルの2010年議会報告書は「受入れ国トラック輸送契約は、軍閥支配、ゆすり、腐敗を助長している上に、武装抵抗勢力にとって重要な資金源となっている可能性もある」と結論づけた。

9位.世界で最も高価な道路:2007年、米国側の企画で、アフガニスタンのホーストとガルデズという町を結ぶ延長64マイルの山道を舗装することにした。完成には6,900万ドルかかると試算されていたが、実際の費用は1億7,600万ドルに膨らんだ。その多くはセキュリティに費やされた。その中には、武装抵抗勢力に与していると信じられている「アラファト」という名で知られる地元の大物に流れた大金も含まれている。5月には、ニューヨーク・タイムズ紙が「6ヶ月前に竣工したばかりの高速道路のある区間が早くも壊れ始め、危険な状態が放置されている」と報じた。

8位.このポンコツ基地:2007年秋、空軍はCH2M
 HILLという請負会社に、キャンプ・フェニックス(アフガニスタンにある陸軍施設)での建設工事代として1,800万ドルを支払った。同社はいかがわしい下請け業者を雇い、その下請けは作業員に賃金を払わずに、200万ドルを着服して国外逃亡した。その金はこの業者が海外に自分の別荘を何軒か建設するのに使われた。支払いを受けなかった作業員は作業を投げ出して、発電機その他の物資を大量に持ち去った。作業の遅れにより、何百人ものNATO軍兵士は1年半の間まともな住居がないままに過ごすことになった。チボー委員長がその仮宿舎を訪ねたとき、兵士から拙劣な電気工事について警告を受けた。「部屋に入って、住人と話をすると、『使用する延長コードによっては、プラグを差し込むとまるで線香花火です』と言う。」(同報告書)

7位.レンタル事業詐欺:イラクとアフガニスタンにある同盟国の基地はだだっぴろくて敷地が平坦ではないものが多い。そこで、現地のレンタル事業者から四輪駆動車を借りて施設間の兵員移動に当てている。アフガニスタン駐留米軍の2010年調査で、陸軍は年間1億1,900万ドルを費やして約3,000台の車両をリースしていることが判明した。1年に車両1台当りざっと4万ドル費やしていることになる。昨年、一般調査局が突き止めたところによれば、軍は「約1,900万ドル(実際の出費の16%)で1,000台の車両をリースで維持することが可能だった」。にもかかわらず、陸軍は今も、レンタカーにプレミアム料金を払うことが戦略的に必要だと考えている。さらに、「武器システムとしての支出」というマニュアルには「民生支援」という項目でリストアップされてさえいる。

6位.カーブル銀行倒産:この問題はまったくの混乱の極みにあるので、我々は包括的な解説記事を書いた。2003年以降、米国国際開発庁は、アフガニスタン中央銀行経営陣の訓練費として米国大手会計事務所のデロイト社に9,200万ドルを支払った。中央銀行はアフガニスタン最大の民間銀行であるカーブル銀行を監督しているが、同行が保有する推定9億ドルの資産の大半は不良債権だ。当然ながら、カーブル銀行は2010年に倒産し、芽生えたばかりのアフガニスタンの金融システムも道連れになった。(カーブル銀行の創立者・最高経営責任者は「自分がしていることは適切な行為ではなく、自分が本来成すべき行為だとは言いかねる。だが、これがアフガニスタンだ」と説明した。つまるところ、米国国際開発庁は、アフガニスタン市場が焦げ付いている中、ウォール街の一企業の無為に対して莫大な支払いをしたというわけだ。「同庁のスタッフが深刻な銀行問題について気がついたのは、ワシントン・ポスト紙を読んでいる時だった。デロイト社から同庁への報告はなかった」と同戦時契約調査委員会は報告している。

5位.マンダリンをお忘れなく(注:mandarinは「ミカン」のほか「重要人物」の意もある):2005年に、国防兵站局はアフガニスタンの基地に「欠かすべからざる」食品を輸送させるため、スイスのシュプリーム・フードサービス社と高額の委託契約を交わした。2011年初頭までに同社が米政府に請求した金額は42億ドルである。ところがペンタゴンの調査員は、この金額は、過当と疑われる費目で数百万ドルの水増し請求になっていることを突き止めた。たとえば、新鮮な果物や野菜をアラブ首長国連邦から「特別空輸」する費用などが含まれていた。にもかかわらず、おそらくシュプリーム社と国防兵站局との契約を監督する立場にあった陸軍大将が同社の米国支社長になっているからだろう、この会社の契約は2年間の延長となった。

4位.不運な兵士:利益を最大にするため、軍事請負会社は貧しい国々から低賃金の作業員を下請けで雇用するが、この慣行は同委員会によれば「強制労働、奴隷制、性的搾取」につながっている。2009年のイラク視察旅行で、委員会メンバーは、トリプル・キャノピー、SABRE、EODTなどの会社に雇われて大規模な米軍基地で働く、ほとんどがアフリカ系あるいは南米系の衛兵のことを知った。次のことがわかった。衛兵の装備は不十分なことが多く、12時間交替で異常に長い移動勤務に就き、1ヶ月の休暇は与えられず、契約が満期を迎えるまで支払はおあずけで、そのため、委託された業務を最後まで我慢してやり遂げるしかない。政府はSABREに衛兵一人当たり月1,700ドルを支払い、SABREはウガンダ出身の作業員に700ドル支払って、差額は自分の懐に入れた。

3~1位.3位も2位もKBR、1位もやはりKBR:同委員会によれば、巨大請負会社のKBR(前はハリバートンといった)は、イラクの基地支援業務に対して過去8年間に少なくとも363億ドル受け取った。これはバンクオブアメリカやシティ・グループの救済に政府が支出した金額に迫る額だ。とはいえ、救済を受けた銀行の方は最終的には返済した。委員会の報告書にはKBRによる数多の浪費例が掲載されている。どこから始めたらいいのか。

イラクで食事サービス契約を7億ドルで受注した下請会社からはリベートを受け取っていた(KBRはこの件で司法省から弁済請求の申し立てを受けている)。それから、月に平均43分しか勤務していない144人のKBR従業員に対して500万ドルが出費されている。調査員の調べで、KBRがイラクで政府から提供を受けた物資のうち1億ドル分が不明となっている。KBRは、イラクの基地での電気工事に2億400万ドルの支払いを受けたにもかかわらず、そのずさんな配線工事の結果、12人もの兵が感電死している。シャワー室で感電して死亡した特殊部隊員もその一人である。同社はまた、ブラックウォーター社を雇い、イラクでの個人警備の代価としてアンクル・サム(米国政府)に5億ドル請求している。とんでもない大手請負会社だ。

おそらく最も問題なのは、同社の人身売買と思しき行為だ。2008年後半に、バグダード郊外のキャンプ・ビクトリ施設群の中に窓のない倉庫が見つかった。そこにはバングラデシュ、インド、ネパール、スリランカ出身の約1,000人の男性が刑務所のような条件下に置かれていた。彼らはKBRの下請業者が雇い入れた作業員であった。同じ頃、別のKBRの下請業者が、高給が得られるとの虚偽の約束で釣ってアジア人作業員をイラクに赴かせた廉で訴えられた。

さらに浪費の例が続く。イラクの駐留兵士を減らす動きが始まったとき、委員会の報告書によると、「KBRはイラクにおける下請作業員の約半数を手配していた。基地が閉鎖されて作業員が立ち去ることになると、KBRはそのうち一部の者を他の基地に回して、そこでの支援業務代を請求した。」トータルすると、不要な人員に対してKBRが政府に請求した金額は、少なくとも1億9,300万ドル、おそらく、3億ドルほどになるだろう。しかし、ペンタゴンがKBRをお払い箱にする気配はない。委員会の共同委員長であるクリストファー・シェイズ元共和党員(コネチカット州選出)は昨年、「つまり、KBRはあまりにも大きな企業なので袖にはできません。今後もKBRに支払いを続けていくことになります」とぼやいた。
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アダム・ウェインスティーンは、Mother Jonesの国家安全問題担当レポーターです。彼のその他のレポートについては、原典中末尾の行にあるhereをクリックしてください。またはツイッターでフォローしてください。ウェインスティーンのRSSフィード(注:RSS形式のデータ提供)をどうぞ。
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原典:
http://motherjones.com/mojo/2011/09/contractor-waste-iraq-KBR

■マラライ・ジョヤ日本講演ツァー実施中です。
27日~29日に、名古屋、大阪、京都の三会場で講演します。
*ジョヤさん講演会詳細については、「RAWAと連帯する会」HPをご覧ください。
http://rawajp.org/?page_id=302

マラライ・ジョヤ日本講演に関連する新聞報道:
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Tn201110170035.html
http://www.yomiuri.co.jp/komachi/news/20111020-OYT8T00179.htm
http://www.okinawatimes.co.jp/article/2011-10-19_24916/