「パレスチナの女性の声」について書かれた速報
1967年に始まったヨルダンとガザ地区に対するイスラエルの占領は、44年目を迎えようとしています。
占領とは何か? 死傷者の多寡で紛争を測る従来の定義に従えば、占領下のパレスチナで起きていることはジェノサイド(大量殺戮)ではありません。しかし、パレスチナ人社会学者サリ・ハナフィは、こうした従来型の定義では、占領下パレスチナで進行中の事態の本質を表すことはできないとして、これを「スペシオサイド(Spaciocide; 空間的扼殺)」と名づけました。パレスチナ人が生きている空間それ自体を破壊することで、彼らが自らの土地で生きていくことを不可能にする、という意味です。パレスチナでは、人間が物理的暴力で大量に殺される代わりに、人間が人間らしく生きる可能性それ自体が、構造的暴力によって組織的かつ集団的に奪われているのです。
この「パレスチナの女性の声」シリーズは、そのような占領の現実を生きている19人の女性の肉声をまとめた報告書(2009年刊行)の翻訳です。作成したのはWCLAC(女性のための法律相談センター)という団体です。普遍的な人権擁護の一分野として、パレスチナにおける女性の権利擁護のために活動する上で、「女性の眼を通して語られる物語を聞くことなしには、パレスチナ社会が被る長期的被害が及ぶ範囲を評価することはできない」(事務局長 マハー・アブー・ダイィエ)という問題意識から聴き取り調査が行われ、文書にまとめた内容について証言者本人の確認を得た上で英訳され発表されました。
(英文報告書:http://www.wclac.org/english/publications/book.pdf )
パレスチナの現状について様々な立場からの報告を入手することができますが、そこで暮らしている女性の生の声を通して、特に女性であるために被っている被害を立証するものは大変貴重なものと言えます。また、「女性の物語は占領の残酷さ、差別および暴力の証拠であるばかりか、パレスチナ人女性の強さとしたたかさを証拠だてるもの」(同報告書序文より)でもあります。
報告書は大きく分けて「暴力」「移動の自由」「住居と家族の離散」「家屋の取り壊し」という構成になっています。
この報告書がパレスチナに生きる権利の回復のため、また世界のすべての地で人が人として生きる権利を確保するために活用されますように。
前書き:岡真理、向井真澄/TUP
翻訳:岡真理、キム・クンミ、寺尾光身、樋口淳子、藤澤みどり、向井真澄/TUP
凡例 [ ] :訳注 〔 〕:訳者による補い
速報一覧
- 速報920号:シリーズ「パレスチナの女性の声」【5】最終回 [まとめ / 行動提案] (2011年07月04日)
- 速報918号 シリーズ「パレスチナの女性の声」【4】家屋の取り壊し−5 (2011年06月16日)
- 速報917号 シリーズ「パレスチナの女性の声」【4】家屋の取り壊し−4 (2011年06月04日)
- 速報915号 シリーズ「パレスチナの女性の声」【4】家屋の取り壊し-3 (2011年06月01日)
- 速報908号 シリーズ「パレスチナの女性の声」【4】-2 (原発危機の中で) [家屋の取り壊し-2] (2011年04月28日)
- 速報902号 シリーズ「パレスチナの女性の声」【4】-1 [家屋の取り壊し-1] (2011年04月07日)
- 速報894号 シリーズ「パレスチナの女性の声」 【3】ー後編 [居住権の侵害-2] (2011年03月04日)
- 速報890号 シリーズ「パレスチナの女性の声」【3】前編 [居住権の侵害-1] (2011年02月21日)
- 速報889号 シリーズ「パレスチナの女性の声」【2】-3/3 [移動の自由の侵害-3] (2011年02月15日)
- 速報887号 シリーズ「パレスチナの女性の声」【2】-2/3 [移動の自由の侵害-2] (2011年02月13日)
- 速報883号 シリーズ「パレスチナの女性の声」【2】-1/3 [移動の自由の侵害-1] (2011年02月09日)
- 速報872号 シリーズ「パレスチナの女性の声」【1】-4 [入植者の暴力-4] (2011年01月16日)
- 速報871号 シリーズ「パレスチナの女性の声」【1】-3 [入植者の暴力-3] (2011年01月10日)
- 速報870号 シリーズ「パレスチナの女性の声」【1】-2 [入植者の暴力-2] (2011年01月04日)
- 速報869号 シリーズ「パレスチナの女性の声」【1】-1 [はじめに /入植者の暴力-1] (2011年01月03日)
CATEGORIES
記事の分類
RECENT ARTICLES
最新の速報
- TUP速報1026号 「人権の彼岸」から世界を観る――二重基準に抗して (2023年10月08日)
- TUP速報 1025号 羊を沈黙させる -- プロパガンダの仕組み (2022年10月15日)
- TUP速報1024号 ヨーロッパで突如として難民支援熱が高まったわけ (2022年05月22日)
- TUP速報1023号 ロシアによるウクライナ侵略についてのコードピンクからの声明 (2022年03月02日)
- TUP速報1022号 アナンド・ゴパル『もう一方のアフガン女性たち』抄 (2021年09月27日)
- TUP速報1021号 「中東人」と呼ぶなかれ (2021年08月09日)
- 速報1020号 シャヒ-ド、イーサー・バルハム / スージー...家族が犠牲となった後に、市民リヤードに残されたもの (2021年07月13日)
- TUP速報1019号 1月26日:インド人が共和国を取り戻した日 (2021年03月05日)
- TUP速報1018号 ルース・ベイダー・ギンズバーグは聖者にあらず (2020年10月31日)
- TUP速報1017号 独立のために闘ったコンゴの女たちを忘れない (2020年07月21日)